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創作文芸ブログ
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2017/01/09 Mon. 18:48 [edit]
はじまりのはじまりで、つづいていた物語。
めぐみという子と向き合い、産まれたおはなしです。
私は、ドキドキがとまりません*:)
めぐみという子と向き合い、産まれたおはなしです。
私は、ドキドキがとまりません*:)
視力が落ちる時は、徐々に、段々と、落ちていく。「あれ、」と気付いた時にはもう世界が曖昧になり始めているものだ。自覚がないまま、見えていた世界が変わっていく。境目が、ぼやけている。
わたしが生きていた世界は、そうだった。色が混ざり合うことはないけれど、少しずつ色たちが干渉して、境目が合いの子みたいになる。そんなものだと思っていた。息をすることと同じくらい当たり前のこと。
そうして、ぼやけた視界のまま未来予想図すら描いていた。根拠のない自信を頼りに生きていた。おぼろげな未来という目標は、それでも輝いて見たものだった。
「恩、あなたは何になりたいの?」
母は幼いわたしに問う。
「めぐね!およめさん!」
目を輝かせた小さなわたしはそう答えた。
高校生にもなれば、「お嫁さんになる」が将来の夢でもなくなる。普通に大学に行き、普通にどこかへ就職して、普通に友達と付き合いながら、いずれ出会えるであろう好きな男性のことを想うのだ。
そんなものだと思っていた。結局、小さい頃描いていた「将来のわたし」がいずれ訪れるものだと、信じて疑わなかった。
周りもそうであろうと、考えることを放棄していたのかもしれない。将来の明確なわたしを、幼かったわたしも描けなく、そして現在のわたしも描けていなかった。音楽に出会うまでは。
何かに出会い、世界が一変するという話は聞いたことがあった。けれど、それはおとぎ話の類い、それこそ紙上のできごと。わたしの身に起こるなんて、思いもしない。けれど、そんなのはあっさりとひっくり返されてしまうものだった。
わたしは、風圧すら感じられる音楽に押されていた。
かき鳴らされる音が、スピーカーから風をまとってわたしの腹部に飛び込んでくる。見えない物理的な攻撃を、真正面から受ける。息を止めていた。歯を食いしばり、唾液を飲み込むことすら忘れていた。
一瞬のことだった。
身構えていなかったわたしは、受け止めることしか出来ない。必死に、しがみついていた。音は次々飛んでくる。とめどなく、流れるように、濁流のごとく。
ギターとベースとドラムだけの音が、会場中に響き渡る。集まった人々はその音に酔いしれ、踊りつくしていた。
みな目を輝かせていた。弾ける汗とあふれる笑顔が辺りを埋めつくしていて、熱気と興奮と至福が入り混じる。音に乗せた声が届くたび、みなが声と腕を上げ、ひとつになっていた。
圧巻とはこのことである。未知の体験が今まさに目の前で起こっている。人々の歓喜の声と踊りと勢いが、わたしのすぐ隣から伝わってくる。
「バカになれ!」
駆け抜けるかのような音が鳴り続く。拍車をかけるようにヴォーカルが唸った。その瞬間、地鳴りが走った。それは、会場にいるファンの声だった。歌い手がメロディを刻む、観客が体をおおいに使いその喜びをあらわしていた。
ギターの主旋律が走り始めた頃、わたしの体も縦に揺れていた。膝を使い上に飛び出す。音を聞けば、自然と体が動き出す。初めて聴く曲であっても、会場と一体になることは容易いことだった。それがライブという生き物の正体だった。
チカチカと自らが光を生み出し光る。眩しくて、輝いていて、欲しいほしいと手を伸ばしてしまう。
わたしの世界が一変した瞬間。それは、初めてライブというものを体感した時のことだった。
ぼやけていた視界は色の境がはっきりと、そして鮮やかに。色濃くなった世界が、わたしを歓迎していた。
「めぐ、やるぞ」
隣に座っていた英治の目が、わたしを射抜く。わたしは頷いた。
少し先には多くの人々。まだ見ぬ新たな才能を見に集まった耳の肥えた観客たち。バックステージのほんのすぐ先に、その熱を感じていた。
五人になったわたしたちが初めて立ち向かう大きな舞台、閃光ライオット。この日のために、今までがあった。
わたしのおぼろげな視界が晴れ、「明確な将来」とまでは言えないけれど、「やりたい」と思えることをはっきりと口に出せるまでにはなった。少し前のわたしから比べれば大きな成長だった。
「そろそろ準備お願いします」
機材やコードを首から下げたスタッフが、こちらに声をかけ走り去った。
側に居てくれた茜が、わたしの背中をひとなでしてくれた。茜の手はとても暖かくて、離れたあとも熱を保っている。それが安らぎに思えた。
「ここまでついてきてくれてありがとう」
立ち上がった英治がそう言った。こちらに背中を向けていて表情は見えない。ただ、声が少し震えていたのは感じられた。
英治も緊張などするのかと、肩の力が抜けた。
力のある我々だから結果を出すのは当たり前と、己から生み出した根拠のない自信だけが取り柄だった徳永英治も、人の子だったのかと。そうやっていつだって、私たちを引っ張てくれていたのは英治だった。
強くて、賢い英治が、震えていた。
「……そういうのは、全部が終わってからにしてよ」
わたしの後ろからぬっと現れてみた凛が、英治の肩を抱え込み抱きしめた。
「まだ終わってないっしょ」
凛の落ち着いた声が、その場に居たメンバーを悟す。
これからたくさん、楽しもう。凛がそう言っているように聞こえた。わたしは何度も頷いていた。
「英治これからだよ、これからみんなで楽しむんだ! 」
立ち上がれ! 前を向け! そして走り出すんだ! わたしたちの未来はまだ始まっていない。これからこの五人で創り出していくんだ。
震えが止まった手を握り込む。気付くと腰を浮かし、前傾で英治の背中に話しかけていた。
「めぐ、顔まっか」
凛が笑いを堪えきれず、吹き出す。組んでいた肩はすでに外れていた。
わたしはお腹を抱えて笑い始めた凛をただ見つめる。鼻息はまだ荒い、握りしめていたこぶしが少し痛かった。
「あー笑った」
「ハイハイ、青春せいしゅん」
お手上げ、と恭はあきれ返る。凛は目尻を拭いていた。茜もいつの間にか、肩を震わせ声を押し殺し笑っていた。
意気込んだ本人とその意気込みを入魂された相手だけが、ポカンと口を開けてそこにいた。
「スタンバイどうぞ!」
ステージの入れ替わりが終わり、スタッフが慌ただしく声をかける。ついにその時が来た。
凛がわたしの背中を強めに叩く。その顔はなんとも楽しそうで、輝いていた。わたしはその笑顔に見惚れて、羨ましくて、手を伸ばしていた。
「わっ」
凛の首に腕を回し、思い切り抱きしめた。突然やってきたわたしの体重に、凛はよろめいていた。
「……ありがとう」
わたしは、始まりを思い出していた。
訪れた今日という日、この日までにやってきた事をすべて。いろあざやかで、最高に煌めいていた。そして、これからを思うとしあわせしか湧き上がってこない。
「いこ! 」
頭を上げ、唖然とするメンバーの顔をぐるりと見渡す。ふふんと笑って見せて走り出す。
ステージに一番乗りするのはわたしだ!
わたしは暗幕をかきわけ、飛び出していた。
照明が上がる。歓声があたりに響いた。
わたしたちの音楽が、いま流れ出す。
Skip a beat!!
わたしが生きていた世界は、そうだった。色が混ざり合うことはないけれど、少しずつ色たちが干渉して、境目が合いの子みたいになる。そんなものだと思っていた。息をすることと同じくらい当たり前のこと。
そうして、ぼやけた視界のまま未来予想図すら描いていた。根拠のない自信を頼りに生きていた。おぼろげな未来という目標は、それでも輝いて見たものだった。
「恩、あなたは何になりたいの?」
母は幼いわたしに問う。
「めぐね!およめさん!」
目を輝かせた小さなわたしはそう答えた。
高校生にもなれば、「お嫁さんになる」が将来の夢でもなくなる。普通に大学に行き、普通にどこかへ就職して、普通に友達と付き合いながら、いずれ出会えるであろう好きな男性のことを想うのだ。
そんなものだと思っていた。結局、小さい頃描いていた「将来のわたし」がいずれ訪れるものだと、信じて疑わなかった。
周りもそうであろうと、考えることを放棄していたのかもしれない。将来の明確なわたしを、幼かったわたしも描けなく、そして現在のわたしも描けていなかった。音楽に出会うまでは。
何かに出会い、世界が一変するという話は聞いたことがあった。けれど、それはおとぎ話の類い、それこそ紙上のできごと。わたしの身に起こるなんて、思いもしない。けれど、そんなのはあっさりとひっくり返されてしまうものだった。
わたしは、風圧すら感じられる音楽に押されていた。
かき鳴らされる音が、スピーカーから風をまとってわたしの腹部に飛び込んでくる。見えない物理的な攻撃を、真正面から受ける。息を止めていた。歯を食いしばり、唾液を飲み込むことすら忘れていた。
一瞬のことだった。
身構えていなかったわたしは、受け止めることしか出来ない。必死に、しがみついていた。音は次々飛んでくる。とめどなく、流れるように、濁流のごとく。
ギターとベースとドラムだけの音が、会場中に響き渡る。集まった人々はその音に酔いしれ、踊りつくしていた。
みな目を輝かせていた。弾ける汗とあふれる笑顔が辺りを埋めつくしていて、熱気と興奮と至福が入り混じる。音に乗せた声が届くたび、みなが声と腕を上げ、ひとつになっていた。
圧巻とはこのことである。未知の体験が今まさに目の前で起こっている。人々の歓喜の声と踊りと勢いが、わたしのすぐ隣から伝わってくる。
「バカになれ!」
駆け抜けるかのような音が鳴り続く。拍車をかけるようにヴォーカルが唸った。その瞬間、地鳴りが走った。それは、会場にいるファンの声だった。歌い手がメロディを刻む、観客が体をおおいに使いその喜びをあらわしていた。
ギターの主旋律が走り始めた頃、わたしの体も縦に揺れていた。膝を使い上に飛び出す。音を聞けば、自然と体が動き出す。初めて聴く曲であっても、会場と一体になることは容易いことだった。それがライブという生き物の正体だった。
チカチカと自らが光を生み出し光る。眩しくて、輝いていて、欲しいほしいと手を伸ばしてしまう。
わたしの世界が一変した瞬間。それは、初めてライブというものを体感した時のことだった。
ぼやけていた視界は色の境がはっきりと、そして鮮やかに。色濃くなった世界が、わたしを歓迎していた。
「めぐ、やるぞ」
隣に座っていた英治の目が、わたしを射抜く。わたしは頷いた。
少し先には多くの人々。まだ見ぬ新たな才能を見に集まった耳の肥えた観客たち。バックステージのほんのすぐ先に、その熱を感じていた。
五人になったわたしたちが初めて立ち向かう大きな舞台、閃光ライオット。この日のために、今までがあった。
わたしのおぼろげな視界が晴れ、「明確な将来」とまでは言えないけれど、「やりたい」と思えることをはっきりと口に出せるまでにはなった。少し前のわたしから比べれば大きな成長だった。
「そろそろ準備お願いします」
機材やコードを首から下げたスタッフが、こちらに声をかけ走り去った。
側に居てくれた茜が、わたしの背中をひとなでしてくれた。茜の手はとても暖かくて、離れたあとも熱を保っている。それが安らぎに思えた。
「ここまでついてきてくれてありがとう」
立ち上がった英治がそう言った。こちらに背中を向けていて表情は見えない。ただ、声が少し震えていたのは感じられた。
英治も緊張などするのかと、肩の力が抜けた。
力のある我々だから結果を出すのは当たり前と、己から生み出した根拠のない自信だけが取り柄だった徳永英治も、人の子だったのかと。そうやっていつだって、私たちを引っ張てくれていたのは英治だった。
強くて、賢い英治が、震えていた。
「……そういうのは、全部が終わってからにしてよ」
わたしの後ろからぬっと現れてみた凛が、英治の肩を抱え込み抱きしめた。
「まだ終わってないっしょ」
凛の落ち着いた声が、その場に居たメンバーを悟す。
これからたくさん、楽しもう。凛がそう言っているように聞こえた。わたしは何度も頷いていた。
「英治これからだよ、これからみんなで楽しむんだ! 」
立ち上がれ! 前を向け! そして走り出すんだ! わたしたちの未来はまだ始まっていない。これからこの五人で創り出していくんだ。
震えが止まった手を握り込む。気付くと腰を浮かし、前傾で英治の背中に話しかけていた。
「めぐ、顔まっか」
凛が笑いを堪えきれず、吹き出す。組んでいた肩はすでに外れていた。
わたしはお腹を抱えて笑い始めた凛をただ見つめる。鼻息はまだ荒い、握りしめていたこぶしが少し痛かった。
「あー笑った」
「ハイハイ、青春せいしゅん」
お手上げ、と恭はあきれ返る。凛は目尻を拭いていた。茜もいつの間にか、肩を震わせ声を押し殺し笑っていた。
意気込んだ本人とその意気込みを入魂された相手だけが、ポカンと口を開けてそこにいた。
「スタンバイどうぞ!」
ステージの入れ替わりが終わり、スタッフが慌ただしく声をかける。ついにその時が来た。
凛がわたしの背中を強めに叩く。その顔はなんとも楽しそうで、輝いていた。わたしはその笑顔に見惚れて、羨ましくて、手を伸ばしていた。
「わっ」
凛の首に腕を回し、思い切り抱きしめた。突然やってきたわたしの体重に、凛はよろめいていた。
「……ありがとう」
わたしは、始まりを思い出していた。
訪れた今日という日、この日までにやってきた事をすべて。いろあざやかで、最高に煌めいていた。そして、これからを思うとしあわせしか湧き上がってこない。
「いこ! 」
頭を上げ、唖然とするメンバーの顔をぐるりと見渡す。ふふんと笑って見せて走り出す。
ステージに一番乗りするのはわたしだ!
わたしは暗幕をかきわけ、飛び出していた。
照明が上がる。歓声があたりに響いた。
わたしたちの音楽が、いま流れ出す。
Skip a beat!!
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