オンエア
創作文芸ブログ
はじまりのとき 
2016/10/07 Fri. 18:00 [edit]
視界が空でいっぱいだった。浮遊感、重力を感じない。
ふと、星が瞬く夜空から青白い手が伸びてくる。
「アリス、僕のアリス。甘い夢を見よう」
ビョオビョオうるさい風に紛れて、男の声が耳に届いた。
とっさに瞼を閉じる。
強く強く、歯を食いしばって。そうでもしないと全てを持っていかれそうな気がした。
けれども、何も起こる気配はない。小鳥のさえずりだけが聞こえる。恐る恐るつむっていた目を開け、現状を確認する。
地に足をつけ、青々とした樹々に囲まれた森に佇んでいた。
「どこここッ」
仲間とのコミュニケーションを楽しんでいるのか、小鳥は絶えずさえずっている。チュピチュピ、ピーピー。
強張っていた腕の力が抜ける。体を抱きしめていた腕は役目を終え、重力のまま下に落ちた。
ふと、星が瞬く夜空から青白い手が伸びてくる。
「アリス、僕のアリス。甘い夢を見よう」
ビョオビョオうるさい風に紛れて、男の声が耳に届いた。
とっさに瞼を閉じる。
強く強く、歯を食いしばって。そうでもしないと全てを持っていかれそうな気がした。
けれども、何も起こる気配はない。小鳥のさえずりだけが聞こえる。恐る恐るつむっていた目を開け、現状を確認する。
地に足をつけ、青々とした樹々に囲まれた森に佇んでいた。
「どこここッ」
仲間とのコミュニケーションを楽しんでいるのか、小鳥は絶えずさえずっている。チュピチュピ、ピーピー。
強張っていた腕の力が抜ける。体を抱きしめていた腕は役目を終え、重力のまま下に落ちた。
-- 続きを読む --
彼女たちに出会ったあの時のキラキラは忘れらない。
まだまだ一緒に遊ぼう、歌おう、踊ろう。大好きなきみたちが、また彩りを戻せるよう、ぼく頑張るから。
アリスの国はアリスの為にある国で、誰かの胸に在るのだと思います。
きっと私の胸の中にも在る。だから、時々思い出します。元気にしてるかなぁ、て。
昨夜、唐突に思いついた「アリスの国のはじまり」リメイクのつもりはありませんが、一緒に思い出してくれたら嬉しいです。
楽しかったあの頃を、これからも。
まだまだ一緒に遊ぼう、歌おう、踊ろう。大好きなきみたちが、また彩りを戻せるよう、ぼく頑張るから。
アリスの国はアリスの為にある国で、誰かの胸に在るのだと思います。
きっと私の胸の中にも在る。だから、時々思い出します。元気にしてるかなぁ、て。
昨夜、唐突に思いついた「アリスの国のはじまり」リメイクのつもりはありませんが、一緒に思い出してくれたら嬉しいです。
楽しかったあの頃を、これからも。
category: アリス
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あとがき 
2011/05/10 Tue. 08:20 [edit]
-- 続きを読む --
長い間この物語にお付き合い下さり、ありがとうございました。皆様のおかげで無事に物語を完結させる事が出来ました。本当にありがとうございます。
本文の補足等々はありません。皆さんの想像力で想像出来なかったらその程度の文才だったんです。申し訳ない。
この作品はこれでお終いです。加筆も修正もしません。出来ればずっと、この形でこの場に残したいと考えております。
実は物語を完結させたのはこの物語が初めてです。長い間連載を続けてる作品があるんですが、それを越えての完結(元々短い話で終わらせる気だったからなんでしょうが)。なので思い出深いのです。
拙い文のまま残させて下さい。
アリスの国はどこにでもある国なんだと思います。ふとした時、ココロの中を覗けばチガウセカイが広がってるかもしれません。私はまだ確認出来ていませんがw
アリスの国の住人はどんどん増えるでしょう。それを少しでも無くしたい、最小限に抑えたいと考えて、ありすはあのセカイに残りました。『アリス』の飼い猫の『ダイナ』となって。
テトテトとアリスの後ろをついて回るダイナ。小さな猫です。
その『ダイナ』のお話はこれから書くつもりはありません。ですが、『ありす』の物語はふとした時書けていけたらなあ、と思いますのでこれからも時々アリスの国を覗いてやってください。
改めて、お付き合い下さりありがとうございました。
10/06/10 ミヤジマ
本文の補足等々はありません。皆さんの想像力で想像出来なかったらその程度の文才だったんです。申し訳ない。
この作品はこれでお終いです。加筆も修正もしません。出来ればずっと、この形でこの場に残したいと考えております。
実は物語を完結させたのはこの物語が初めてです。長い間連載を続けてる作品があるんですが、それを越えての完結(元々短い話で終わらせる気だったからなんでしょうが)。なので思い出深いのです。
拙い文のまま残させて下さい。
アリスの国はどこにでもある国なんだと思います。ふとした時、ココロの中を覗けばチガウセカイが広がってるかもしれません。私はまだ確認出来ていませんがw
アリスの国の住人はどんどん増えるでしょう。それを少しでも無くしたい、最小限に抑えたいと考えて、ありすはあのセカイに残りました。『アリス』の飼い猫の『ダイナ』となって。
テトテトとアリスの後ろをついて回るダイナ。小さな猫です。
その『ダイナ』のお話はこれから書くつもりはありません。ですが、『ありす』の物語はふとした時書けていけたらなあ、と思いますのでこれからも時々アリスの国を覗いてやってください。
改めて、お付き合い下さりありがとうございました。
10/06/10 ミヤジマ
category: アリス
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Last Story 
2011/05/10 Tue. 08:19 [edit]
目を閉じても
広がるのは闇のみ
瞼を持ち上げれば
カレラガマッテテクレル
広がるのは闇のみ
瞼を持ち上げれば
カレラガマッテテクレル
-- 続きを読む --
「止めろッありす!!」
ありすがうさぎの首を捕えた瞬間、チェシャ猫の声が辺りに響き渡りました。けれどもありすの動きは止まりません。ゆっくりとうさぎの首を絞め始めました。
再びチェシャ猫の声は言います。
「そいつの首を…そいつを殺しても何の意味もないだろうッ!」
「何もしないよりッ!!……今までみたいに何もしないよりマシなんじゃないのか?」
制止しようとするチェシャ猫の声を、倍の声量でありすが制止します。
ありすの言うとおり、帽子屋やチェシャ猫たち住人はうさぎの行為を止める事が出来ずに、ただ成るがままにしてきました。そんな住人たちとは違うありすは、うさぎを無いものにしようと思い付いたのです。
ありすの言葉にチェシャ猫は拳を強く握り締め、感情を押し殺すのに必死でした。そうしないと、今まで押し殺してきた感情スベテが溢れ出てしまいそうになったからです。
「誰も…誰もそんなの望んじゃいない…!」
「なら、オレが望めばいい。オレが望もう」
徐々に絞めあげられる首。そんな状況なのにうさぎはピクリともしません。ありすはゆっくりと、ジワジワ纏わりつくように首を絞めあげます。
そんなありすを見ていたチェシャ猫は遂に動きました。うさぎの首を絞めているありすの手を引き剥がそうと手をかけ言いました。
「でも…ッ、お前が手をかけることはないだろッ」
「なら誰がやるって言うんだッ!!」
閑静な室内にありすの声が木霊します。手をかけたチェシャ猫の動きも止まりました。
ありすは視線を落とし、感情を隠さず表へ出します。
「誰も手をかけず躊躇うのならば、オレがやる。オレがやれば済むじゃないか…!」
ありすの感情が溢れ、周りの者に痛く突き刺さります。
ありすがスベテを背負い、消える運命だったのでしょうか。誰にもわからないことです。
ただ一人を除いて…
「やめて…」
か細い声が小さく響きました。みな、声のした方に視線を投げました。
「…やめてっ、うさぎさんを取らないで…!わたしからうさぎさんを取ったら…ッ」
段々と弱々しく、涙声になりながらもしっかりと感情を出し、主張する声。
ありす達は何も言えなくなってしまいました。その声の主が、動かない筈の女王のものだったからです。
女王はしっかりと自分の足で立ち、自分の背丈より遥かに大きいうさぎを支えようと背中に腕を回し、うるうると潤んだ漆黒の瞳でありすを捕えています。
今まで見てきた女王とはまるで違います。はっきりとした瞳に、そこにいる全員が息を飲みました。
「わたしは…どうやって生きたらいいの……」
縋るようにうさぎの胸に抱き付く女王。その姿を見て、スルリとありすの手が解かれました。
するとうさぎの腕が確かめる様に女王の身体を抱き締めたのです。
ゆっくりと一歩下がり、うなだれるありす。全身脱力しているようでした。
「なあ…、オレの体…どこにある…?」
その問いに帽子屋とチェシャ猫は顔を見合いました。そして帽子屋が口を開きます。
「…こちらのセカイに来たと同時に消滅しているだろう」
「そっ…か…。んじゃあ死んだって事になってんのか…。ま、元々自殺してたんだろうけど…」
うなだれたままありすは言います。全てを振り払ったような、真っ白な印象。先程までのありすではなく、どことなくいつものありすに近いような気もします。
「帰る場所はないって訳か…」
ぽつりと零れた言葉。
誰もが痛々しく感じるコトバでした。
「なあ帽子屋。オレの存在、ここに止めて置く方法ないか?」
「……アリスの座が埋まることは有り得ない」
「なら、それ以外で」
「っ…、それならばできなくもない」
「そっか…んじゃあそれで」
「いいのかい?後戻りは出来ない…」
「既に無い存在に執着しても仕方ないさ」
「………ならば、チェシャ猫に訊きなさい。ここの住人ななる術を」
観念したようにため息を吐きながら帽子屋は言いました。何があっても引き下がらないありすの根気に負けたようでした。
ありすの体は消え、意思だけがこのセカイにあります。そんな状態は不安定で、ありすの消滅を防ぐ手立てはひとつしかありませんでした。
「だってさ、猫。お願い出来る?」
チェシャ猫を捕え、柔らかな眼差しになったありす。全てを捨て、新しくなろうとしている様子でした。
「…バカじゃないのか」
「そうだな、大馬鹿者でしかないな」
ありすのコトバと視線を受け、チェシャ猫は俯いていた顔を上げありすと向かい合います。
「それで本当に…いいのか?」
「何度も言わせるな、これで良いんだよ」
小さく、だけど解るようにチェシャ猫はため息を吐きました。それを見たありすは顔をくしゃくしゃにしながら笑いました。
「…お前は最後まで訳の解らないヤツだな」
「そんなんで良いんだ。誰にも理解されなくていいんだよ」
手のひらで顔を覆い、表情を隠すありす。
チェシャ猫がありすの前にゆっくりと歩み寄ります。
「さ、物語はお終いだよ。…チェシャ猫」
その声を合図にチェシャ猫はありすの頭に手を翳しました。
辺りはまばゆい光に包まれ、ゼロへ戻りました。
緑深いとある森のとある場所に小さな少女が迷いこんでしまいました。
キョロキョロと不安そうに辺りを見回す少女。すると木の上から声が降ってきました。
「あれ?『アリス』じゃないか」
少女が声のする方へ視線を向けると声の主が降りてきました。
黒を基調としたオリジナリティが感じられる服を身に纏う、黒髪青目の少年のような人物が姿を表しました。
少年はその人物を不思議そうに見上げます。
「小さなアリス、お茶会をしないか?」
人物は少女へと腕を伸ばし誘います。にこやかな笑顔には不審さが少しも感じられません。心からの笑顔を少女に向けているようでした。
小さな口が遂に開かれました。
「あなたはだあれ?」
見上げられた無垢な瞳を受けながら人物はこたえます。
「オレはダイナ。迷子のアリスについてまわる小さなネコさ」
ありすがうさぎの首を捕えた瞬間、チェシャ猫の声が辺りに響き渡りました。けれどもありすの動きは止まりません。ゆっくりとうさぎの首を絞め始めました。
再びチェシャ猫の声は言います。
「そいつの首を…そいつを殺しても何の意味もないだろうッ!」
「何もしないよりッ!!……今までみたいに何もしないよりマシなんじゃないのか?」
制止しようとするチェシャ猫の声を、倍の声量でありすが制止します。
ありすの言うとおり、帽子屋やチェシャ猫たち住人はうさぎの行為を止める事が出来ずに、ただ成るがままにしてきました。そんな住人たちとは違うありすは、うさぎを無いものにしようと思い付いたのです。
ありすの言葉にチェシャ猫は拳を強く握り締め、感情を押し殺すのに必死でした。そうしないと、今まで押し殺してきた感情スベテが溢れ出てしまいそうになったからです。
「誰も…誰もそんなの望んじゃいない…!」
「なら、オレが望めばいい。オレが望もう」
徐々に絞めあげられる首。そんな状況なのにうさぎはピクリともしません。ありすはゆっくりと、ジワジワ纏わりつくように首を絞めあげます。
そんなありすを見ていたチェシャ猫は遂に動きました。うさぎの首を絞めているありすの手を引き剥がそうと手をかけ言いました。
「でも…ッ、お前が手をかけることはないだろッ」
「なら誰がやるって言うんだッ!!」
閑静な室内にありすの声が木霊します。手をかけたチェシャ猫の動きも止まりました。
ありすは視線を落とし、感情を隠さず表へ出します。
「誰も手をかけず躊躇うのならば、オレがやる。オレがやれば済むじゃないか…!」
ありすの感情が溢れ、周りの者に痛く突き刺さります。
ありすがスベテを背負い、消える運命だったのでしょうか。誰にもわからないことです。
ただ一人を除いて…
「やめて…」
か細い声が小さく響きました。みな、声のした方に視線を投げました。
「…やめてっ、うさぎさんを取らないで…!わたしからうさぎさんを取ったら…ッ」
段々と弱々しく、涙声になりながらもしっかりと感情を出し、主張する声。
ありす達は何も言えなくなってしまいました。その声の主が、動かない筈の女王のものだったからです。
女王はしっかりと自分の足で立ち、自分の背丈より遥かに大きいうさぎを支えようと背中に腕を回し、うるうると潤んだ漆黒の瞳でありすを捕えています。
今まで見てきた女王とはまるで違います。はっきりとした瞳に、そこにいる全員が息を飲みました。
「わたしは…どうやって生きたらいいの……」
縋るようにうさぎの胸に抱き付く女王。その姿を見て、スルリとありすの手が解かれました。
するとうさぎの腕が確かめる様に女王の身体を抱き締めたのです。
ゆっくりと一歩下がり、うなだれるありす。全身脱力しているようでした。
「なあ…、オレの体…どこにある…?」
その問いに帽子屋とチェシャ猫は顔を見合いました。そして帽子屋が口を開きます。
「…こちらのセカイに来たと同時に消滅しているだろう」
「そっ…か…。んじゃあ死んだって事になってんのか…。ま、元々自殺してたんだろうけど…」
うなだれたままありすは言います。全てを振り払ったような、真っ白な印象。先程までのありすではなく、どことなくいつものありすに近いような気もします。
「帰る場所はないって訳か…」
ぽつりと零れた言葉。
誰もが痛々しく感じるコトバでした。
「なあ帽子屋。オレの存在、ここに止めて置く方法ないか?」
「……アリスの座が埋まることは有り得ない」
「なら、それ以外で」
「っ…、それならばできなくもない」
「そっか…んじゃあそれで」
「いいのかい?後戻りは出来ない…」
「既に無い存在に執着しても仕方ないさ」
「………ならば、チェシャ猫に訊きなさい。ここの住人ななる術を」
観念したようにため息を吐きながら帽子屋は言いました。何があっても引き下がらないありすの根気に負けたようでした。
ありすの体は消え、意思だけがこのセカイにあります。そんな状態は不安定で、ありすの消滅を防ぐ手立てはひとつしかありませんでした。
「だってさ、猫。お願い出来る?」
チェシャ猫を捕え、柔らかな眼差しになったありす。全てを捨て、新しくなろうとしている様子でした。
「…バカじゃないのか」
「そうだな、大馬鹿者でしかないな」
ありすのコトバと視線を受け、チェシャ猫は俯いていた顔を上げありすと向かい合います。
「それで本当に…いいのか?」
「何度も言わせるな、これで良いんだよ」
小さく、だけど解るようにチェシャ猫はため息を吐きました。それを見たありすは顔をくしゃくしゃにしながら笑いました。
「…お前は最後まで訳の解らないヤツだな」
「そんなんで良いんだ。誰にも理解されなくていいんだよ」
手のひらで顔を覆い、表情を隠すありす。
チェシャ猫がありすの前にゆっくりと歩み寄ります。
「さ、物語はお終いだよ。…チェシャ猫」
その声を合図にチェシャ猫はありすの頭に手を翳しました。
辺りはまばゆい光に包まれ、ゼロへ戻りました。
緑深いとある森のとある場所に小さな少女が迷いこんでしまいました。
キョロキョロと不安そうに辺りを見回す少女。すると木の上から声が降ってきました。
「あれ?『アリス』じゃないか」
少女が声のする方へ視線を向けると声の主が降りてきました。
黒を基調としたオリジナリティが感じられる服を身に纏う、黒髪青目の少年のような人物が姿を表しました。
少年はその人物を不思議そうに見上げます。
「小さなアリス、お茶会をしないか?」
人物は少女へと腕を伸ばし誘います。にこやかな笑顔には不審さが少しも感じられません。心からの笑顔を少女に向けているようでした。
小さな口が遂に開かれました。
「あなたはだあれ?」
見上げられた無垢な瞳を受けながら人物はこたえます。
「オレはダイナ。迷子のアリスについてまわる小さなネコさ」
category: アリス
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22 
2011/05/10 Tue. 08:18 [edit]
フカク
暗く
ツメタク
悲しい…
暗く
ツメタク
悲しい…
-- 続きを読む --
ヒカリが溢れ、身体いっぱい包まれる感覚。
「おい、ありす…」
「目を開けて下さい」
ゆるゆると瞼を持ち上げる。今度は慣れ親しんだ光りだった。
視界には帽子屋と猫。どちらも安堵した様な顔で、何だかおかしかった。
「どう…したんだよ、らしくない顔して…」
そう言うと二人して顔見合って、苦笑に近い笑みを返してくれる。困っているのと、嬉しいのと、そんな複数の感情が折り混ざったような優しい笑みだった。
「ほら、涙拭きな」
「…泣いてたんだ、気付かなかった」
タオルのような、温かい生地を手渡してくれた。横たわっていた身体を起こし、受け取った生地で目許を擦る。流したものを拭い去る様に。
「あ…、れ…?何で?…なんで止まんないの…」
拭いても拭いても出てくる涙。視界がぼやけて、輪郭がはっきりと捕らえられない。
擦れば擦るほど溢れ出る涙に戸惑うしかなかった。
「……コワイ?オソロシイ?…シニタイ?」
うさぎはそう言って突然笑い出す。クスクス、優雅な笑い方なのに何故だか悪寒が走るような気味悪さが感じられる。女王の傍らに立ち、カノジョの頭を愛しそうに撫でた。
「そうだよねえ…、死にたくもなるよねえ…。実の父親からあんなことされたら…」
「黙れうさぎ」
「猫ごときが何を出来るって言うんだッ!」
猫の声を遮る様に、突然の怒鳴り声が響く。それはうさぎのものだった。
だが、次の瞬間には高らかに笑っていた。
「……クッ、何も出来なくて当然だろうね」
優雅ないつもの手付きでカノジョを抱き上げる。愛しそうな瞳なのに放たれるコトバは残酷。
帽子屋も猫も動かない。いや、動けないのかもしれない。また繰り返しにしかならないから。
「スベテは僕の手の中。クイーンにしてあげられる全ては僕が持ってるんだもの。…この国のスベテは、僕だ」
まるで国というオモチャを手に入れた子供のよう。愕然とした。
うさぎは続ける。
「クイーンが新しいオモチャを欲しがったから、君を選んだ。…ココロに闇を抱えたままシンジャッタ君を、ね」
頭を殴られた感じがした。
衝撃、痛みはない。
ただ、ガンガンと頭に響く。耳を塞ぎたいのに手が、体が動かない。
「だから、甘い夢をみせてあげるよ…」
「ぁ…ぁあ…、ぁぁぁぁあああッ!!」
ナニか違うものに乗っ取られた感覚がして、そこで意識が飛んだ。
「……甘い夢?反吐が出る。オレはあそこを捨てただけだ、勘違いするな」
ありすは立ち上がり、その漆黒の瞳でうさぎを捕らえます。うさぎは女王を抱き抱えたまま、動きを止めました。
一瞬にして捕えられ、動きを封じられる。それ程ありすの漆黒の瞳は威圧される何かがあるのでしょう。
ありすは、のろりのろりとうさぎへ近付きます。
「あそこではもう居ない存在。お前は、スベテが欲しいんだろ?なら無に帰ればいい。……共に朽ちろ、うさぎ」
真正面に立ち白い首筋目掛け、ありすの両手が伸ばされました。
「おい、ありす…」
「目を開けて下さい」
ゆるゆると瞼を持ち上げる。今度は慣れ親しんだ光りだった。
視界には帽子屋と猫。どちらも安堵した様な顔で、何だかおかしかった。
「どう…したんだよ、らしくない顔して…」
そう言うと二人して顔見合って、苦笑に近い笑みを返してくれる。困っているのと、嬉しいのと、そんな複数の感情が折り混ざったような優しい笑みだった。
「ほら、涙拭きな」
「…泣いてたんだ、気付かなかった」
タオルのような、温かい生地を手渡してくれた。横たわっていた身体を起こし、受け取った生地で目許を擦る。流したものを拭い去る様に。
「あ…、れ…?何で?…なんで止まんないの…」
拭いても拭いても出てくる涙。視界がぼやけて、輪郭がはっきりと捕らえられない。
擦れば擦るほど溢れ出る涙に戸惑うしかなかった。
「……コワイ?オソロシイ?…シニタイ?」
うさぎはそう言って突然笑い出す。クスクス、優雅な笑い方なのに何故だか悪寒が走るような気味悪さが感じられる。女王の傍らに立ち、カノジョの頭を愛しそうに撫でた。
「そうだよねえ…、死にたくもなるよねえ…。実の父親からあんなことされたら…」
「黙れうさぎ」
「猫ごときが何を出来るって言うんだッ!」
猫の声を遮る様に、突然の怒鳴り声が響く。それはうさぎのものだった。
だが、次の瞬間には高らかに笑っていた。
「……クッ、何も出来なくて当然だろうね」
優雅ないつもの手付きでカノジョを抱き上げる。愛しそうな瞳なのに放たれるコトバは残酷。
帽子屋も猫も動かない。いや、動けないのかもしれない。また繰り返しにしかならないから。
「スベテは僕の手の中。クイーンにしてあげられる全ては僕が持ってるんだもの。…この国のスベテは、僕だ」
まるで国というオモチャを手に入れた子供のよう。愕然とした。
うさぎは続ける。
「クイーンが新しいオモチャを欲しがったから、君を選んだ。…ココロに闇を抱えたままシンジャッタ君を、ね」
頭を殴られた感じがした。
衝撃、痛みはない。
ただ、ガンガンと頭に響く。耳を塞ぎたいのに手が、体が動かない。
「だから、甘い夢をみせてあげるよ…」
「ぁ…ぁあ…、ぁぁぁぁあああッ!!」
ナニか違うものに乗っ取られた感覚がして、そこで意識が飛んだ。
「……甘い夢?反吐が出る。オレはあそこを捨てただけだ、勘違いするな」
ありすは立ち上がり、その漆黒の瞳でうさぎを捕らえます。うさぎは女王を抱き抱えたまま、動きを止めました。
一瞬にして捕えられ、動きを封じられる。それ程ありすの漆黒の瞳は威圧される何かがあるのでしょう。
ありすは、のろりのろりとうさぎへ近付きます。
「あそこではもう居ない存在。お前は、スベテが欲しいんだろ?なら無に帰ればいい。……共に朽ちろ、うさぎ」
真正面に立ち白い首筋目掛け、ありすの両手が伸ばされました。
category: アリス
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21 
2011/05/10 Tue. 08:16 [edit]
ふわふわ
グルグル
訳が解らなくナル
ふわふわ
グルグル
ふわふわ
グルグル
グルグル
訳が解らなくナル
ふわふわ
グルグル
ふわふわ
グルグル
-- 続きを読む --
「伊勢谷!」
名前を呼ばれた。自分の苗字だ。
顔を上げると顔見知ったクラスの男子が目の前に立っていた。
周りを見渡せばこれも見知った教室に机たち。
「担任が呼んでたけど…」
「あ、悪い…。さんきゅな」
違和感が拭えないのか、しかめた表情のクラスメイトに片手を上げながら席を立つ。教室を出れば一人のセカイだ。
イセヤ…そうだった。忘れかけていた。
何故?何で自分の苗字を忘れる?それ程のことが起きたのだろうか。
歩きながら暫くの間頭を捻って考えるが何も浮かばなかった。
「ありす?…顔色よくないわよ?学校で何かあった…?」
声のする方を向けば母さんの心配そうな顔があった。
「え…?」
「だから、何か悩みごとでもあるんじゃないの?」
いつの間に、というより一瞬の出来ごとだ。何が起こったのか把握出来ない、頭が追いつかない。
ふと、似た経験をした感じがした。
いや、してる。今なんだ、過去の経験じゃない。
帰ってきてどうする、何をしてるんだ、アソコの出来ごとはどうしたんだ。まだ何も片付いてないのに…!
……違う、帰って来たんじゃない。アイツに、うさぎに観せられてるんだ。記憶をいじってるのか、それとも…。
「…ありす…」
声の主が変わる。ああ、いけない、この声を聴いたら…!!
目まぐるしく場面が変わる。これは全部あの時の、あの日のキオク。
止めてくれ…!
強く耳を塞ごうとするが、何かに拒まれる。捕まった腕の先には…あのひと。
「ありす…、何で父さんの言うことがきけない?…悪い子だ」
「…いやっ!止めて…父さんッ…!」
腕を引き剥がそうとするも、成人男性の力には及ばない。軽々と両腕をまとめられてしまう。
顔を上げれば、優しかった筈の父さんの顔。それが今、もう面影も見られない。
なんで、どうして、どこで道を外したんだ。誰が悪いのかも、今になっては解らない。
「そんな男みたいな格好なんて似合わないんだから、父さんが買ってあげたのを着なさい。…それとも」
「ッ!?嫌だッ放して…!放せよッ!!」
座った状態で束ねられた両腕を目一杯上げられる。上着の裾から腕が入ってくる感覚に吐き気がし、激しく暴れた。
――りんっ
すると小さく鈴の音が聞こえた気がした。
『そのまま暴れてろ、今いく』
―リンッ
今度ははっきりと、声まで聞こえた。
ああ、これは…。
「ッごめん!」
声の言う通り動く。父さんの腹に思い切り蹴りを入れる。流石に効いた様子だった。慌ててその場から離れる。
確証はないのに、体が反応する。
動け、暴れろ、逃げろ。
そう言ってくれた。
「猫!チェシャ猫!どこッ?」
『そのまま進め。安心しろ、大丈夫だ。一緒に居る』
無我夢中で走り続ける。
猫の声が導くままに。
見知った家の中だった筈なのに、いつの間にか知らない、真っ黒な道になっていた。
まだ真っ直ぐ、大丈夫、猫が居る。
扉が見えた。両腕を伸ばし、力いっばい押し開ける。
その先は、ヒカリだった。
名前を呼ばれた。自分の苗字だ。
顔を上げると顔見知ったクラスの男子が目の前に立っていた。
周りを見渡せばこれも見知った教室に机たち。
「担任が呼んでたけど…」
「あ、悪い…。さんきゅな」
違和感が拭えないのか、しかめた表情のクラスメイトに片手を上げながら席を立つ。教室を出れば一人のセカイだ。
イセヤ…そうだった。忘れかけていた。
何故?何で自分の苗字を忘れる?それ程のことが起きたのだろうか。
歩きながら暫くの間頭を捻って考えるが何も浮かばなかった。
「ありす?…顔色よくないわよ?学校で何かあった…?」
声のする方を向けば母さんの心配そうな顔があった。
「え…?」
「だから、何か悩みごとでもあるんじゃないの?」
いつの間に、というより一瞬の出来ごとだ。何が起こったのか把握出来ない、頭が追いつかない。
ふと、似た経験をした感じがした。
いや、してる。今なんだ、過去の経験じゃない。
帰ってきてどうする、何をしてるんだ、アソコの出来ごとはどうしたんだ。まだ何も片付いてないのに…!
……違う、帰って来たんじゃない。アイツに、うさぎに観せられてるんだ。記憶をいじってるのか、それとも…。
「…ありす…」
声の主が変わる。ああ、いけない、この声を聴いたら…!!
目まぐるしく場面が変わる。これは全部あの時の、あの日のキオク。
止めてくれ…!
強く耳を塞ごうとするが、何かに拒まれる。捕まった腕の先には…あのひと。
「ありす…、何で父さんの言うことがきけない?…悪い子だ」
「…いやっ!止めて…父さんッ…!」
腕を引き剥がそうとするも、成人男性の力には及ばない。軽々と両腕をまとめられてしまう。
顔を上げれば、優しかった筈の父さんの顔。それが今、もう面影も見られない。
なんで、どうして、どこで道を外したんだ。誰が悪いのかも、今になっては解らない。
「そんな男みたいな格好なんて似合わないんだから、父さんが買ってあげたのを着なさい。…それとも」
「ッ!?嫌だッ放して…!放せよッ!!」
座った状態で束ねられた両腕を目一杯上げられる。上着の裾から腕が入ってくる感覚に吐き気がし、激しく暴れた。
――りんっ
すると小さく鈴の音が聞こえた気がした。
『そのまま暴れてろ、今いく』
―リンッ
今度ははっきりと、声まで聞こえた。
ああ、これは…。
「ッごめん!」
声の言う通り動く。父さんの腹に思い切り蹴りを入れる。流石に効いた様子だった。慌ててその場から離れる。
確証はないのに、体が反応する。
動け、暴れろ、逃げろ。
そう言ってくれた。
「猫!チェシャ猫!どこッ?」
『そのまま進め。安心しろ、大丈夫だ。一緒に居る』
無我夢中で走り続ける。
猫の声が導くままに。
見知った家の中だった筈なのに、いつの間にか知らない、真っ黒な道になっていた。
まだ真っ直ぐ、大丈夫、猫が居る。
扉が見えた。両腕を伸ばし、力いっばい押し開ける。
その先は、ヒカリだった。
category: アリス
tb: -- cm: 0
20 
2011/05/10 Tue. 08:16 [edit]
頭に響く音
とくんとくん
段々強くなる
どくんどくん
…止めろ、止まれ!
ドクンドクンッ
とくんとくん
段々強くなる
どくんどくん
…止めろ、止まれ!
ドクンドクンッ
-- 続きを読む --
「ッありす!…顔色が優れないよ」
大きく揺さぶられて漸く帽子屋の声が頭に届いた。
何かを考え込んだ訳でもなく、頭を働かせてなかった訳でもない。
ただ、あの奇妙な声とコトバが頭に響くだけ。ガンガンと打ち付ける様に声が…コトバが、大きくなって迫ってくる。
そんな感覚に強烈な吐き気を覚えた。
「…ごめん、ありがとう」
「気分が優れないなら休めばいい。…無理をしないでおくれ」
肩に置かれた手のぬくもりがあたたかい。
帽子屋の声色そのもの。とても安心出来た。
「ホント大丈夫…。ありがと」
何でか込み上げてくる感情に戸惑う。悲しみなのか、安堵なのか、判らなかった。
そうやって小さな会話をしながらウサギの人形の後を追って歩く。段々見覚えのある道になってきた気がする。どうやらあの部屋に導かれてるようだった。
あそこには抜け殻の様な、彼女が居る。
「女王が恐いのかい」
ポツリと零されたことば。
それからはなんの感情も読み取れなかった。帽子屋を見上げるが笑い返してもくれない。初めて帽子屋に感じた恐怖の感情。この人はいつでも不思議なくらい安堵をくれたのに。
「…恐くは、ない。ただ…、何か嫌な予感がするんだ」
この扉の奥にあるナニカが。
少し前にもここに立ち、恐怖に似た何かを感じ、カノジョに会ってしまった。アイツの導かれるままに。
人形は不思議な力(と言ってもこのセカイでは普通のことなのだろう)を使って扉を開ける。白で統一された部屋はこの前と寸分違わなかった。
アイツもカノジョもそこにいた。
半歩後ろには帽子屋がいる。
「……やあ、アリス」
「その名前で呼ぶな」
「素敵な名前じゃないか、何故そんなに嫌う?」
知ってるくせに…。
何もかも知ってて知らぬ振り。一番腹が立つ。
苛立ちが募り始めていた。
「……オンナ、だから?」
クスクスと馬鹿にする様な笑い方。そしてその声色はまるで子供のよう。
拳を握り締め、感情をコントロールする。
負けるな。乗せられるな。帰ることだけに集中しろ。
そうやって繰り返し唱えて、感情の波を穏やかにしていった。
「…そんなことしてもムダなのに」
「え…?」
うさぎが一本歩み出して、右腕を顔の前に突き出された。気付いたら帽子屋も動いてて、けどそれより先にうさぎの手が届いていた。
「ありすッ!!」
そう、穏やかな帽子屋の声色からは想像出来ないような声で呼ばれた。
だけど応える前に意識が遠のいていった。
「 よ い ゆ め を 」
大きく揺さぶられて漸く帽子屋の声が頭に届いた。
何かを考え込んだ訳でもなく、頭を働かせてなかった訳でもない。
ただ、あの奇妙な声とコトバが頭に響くだけ。ガンガンと打ち付ける様に声が…コトバが、大きくなって迫ってくる。
そんな感覚に強烈な吐き気を覚えた。
「…ごめん、ありがとう」
「気分が優れないなら休めばいい。…無理をしないでおくれ」
肩に置かれた手のぬくもりがあたたかい。
帽子屋の声色そのもの。とても安心出来た。
「ホント大丈夫…。ありがと」
何でか込み上げてくる感情に戸惑う。悲しみなのか、安堵なのか、判らなかった。
そうやって小さな会話をしながらウサギの人形の後を追って歩く。段々見覚えのある道になってきた気がする。どうやらあの部屋に導かれてるようだった。
あそこには抜け殻の様な、彼女が居る。
「女王が恐いのかい」
ポツリと零されたことば。
それからはなんの感情も読み取れなかった。帽子屋を見上げるが笑い返してもくれない。初めて帽子屋に感じた恐怖の感情。この人はいつでも不思議なくらい安堵をくれたのに。
「…恐くは、ない。ただ…、何か嫌な予感がするんだ」
この扉の奥にあるナニカが。
少し前にもここに立ち、恐怖に似た何かを感じ、カノジョに会ってしまった。アイツの導かれるままに。
人形は不思議な力(と言ってもこのセカイでは普通のことなのだろう)を使って扉を開ける。白で統一された部屋はこの前と寸分違わなかった。
アイツもカノジョもそこにいた。
半歩後ろには帽子屋がいる。
「……やあ、アリス」
「その名前で呼ぶな」
「素敵な名前じゃないか、何故そんなに嫌う?」
知ってるくせに…。
何もかも知ってて知らぬ振り。一番腹が立つ。
苛立ちが募り始めていた。
「……オンナ、だから?」
クスクスと馬鹿にする様な笑い方。そしてその声色はまるで子供のよう。
拳を握り締め、感情をコントロールする。
負けるな。乗せられるな。帰ることだけに集中しろ。
そうやって繰り返し唱えて、感情の波を穏やかにしていった。
「…そんなことしてもムダなのに」
「え…?」
うさぎが一本歩み出して、右腕を顔の前に突き出された。気付いたら帽子屋も動いてて、けどそれより先にうさぎの手が届いていた。
「ありすッ!!」
そう、穏やかな帽子屋の声色からは想像出来ないような声で呼ばれた。
だけど応える前に意識が遠のいていった。
「 よ い ゆ め を 」
category: アリス
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19 
2011/05/10 Tue. 08:16 [edit]
ココハドコ?
ワタシハアリス
アナタハウサギネ
ウサギサン
ワタシヲユメノセカイニツレテキテクレタノネ
ナンテヤサシイノ
ダイスキ!
ウサギサン、ダイスキヨ!!
ワタシハアリス
アナタハウサギネ
ウサギサン
ワタシヲユメノセカイニツレテキテクレタノネ
ナンテヤサシイノ
ダイスキ!
ウサギサン、ダイスキヨ!!
-- 続きを読む --
ぽてぽてと帽子屋の足音がする。ふざけた足音だから何か変な物を履いてるんじゃないかと思って調べたが、至って普通の革靴で驚いた。しかし、考えてみると何が起こっても不思議じゃないんだよな、精神世界なんだから。
そんなことを考えて、この世界の「普通」に慣れてきていることを実感し焦った。
ふと、とある疑問が浮かぶ。
「チェシャは一番彼女と付き合いが長い。彼は彼女が「生きて」いた「世界」の頃から一緒にいるんだよ」
疑問は浮かんですぐに弾けた。帽子屋は口に出さずとも意思を読み取ってくれる。彼の読心術は大したものだと、毎回思う。
「えっ…じゃあ、あの「猫」は彼なのか?」
「そう…。彼は昔から頭が良くてね、そして人の感情に敏感だ。……そんな彼だから、彼女の側に居れたんだよ」
やさしく、過去の記憶にある顔を思い出す様に、帽子屋は語る。
以前帽子屋が話してくれた、この「セカイ」の創造の話を思い出した。とても可愛らしく愛らしい、優しい少女が考えそうな物語だったのを今でもおぼえている。
女王…この「セカイ」の創造者であり、何処にでもいる儚げなごく普通の少女。
そんな少女にどんなことがあり、どんな思いであの「世界」で過ごしていたのか、彼だけは全て知っている。
彼はどんな気持ちで少女の側に居続けたのだろうか。
「着いてしまった、と言うべきなのか、漸く着いた、と言うべきなのか。…どちらにせよ、いずれは来る運命だったのかもしれない…ね」
思考を遮る様に帽子屋は言った。
自分がどんな表情をしていたか解らないが、きっと酷く情けない顔をしていたのだろう。こちらを見た帽子屋の表情がやわらかく歪んだ。
「………行かなきゃ始まらないし、終わらないんだろうな。さ…、行こう」
帽子屋の表情は、彼の優しいからあんなカオをするんだ。そう考えると、変人なのは優しさからくるものなのかもしれない。
目の前の門に対峙するのは二度目。そしてこれが最後になるんだろう。
門を押す手にゆっくりと力を加える。この前みたいに自ら開かない門はやっぱり重かった。仕方なく思い切り力を込めようとした瞬間、自動で開き始めた。
「え……?」
辺りを探すがアイツはいない。ならば誰が…。ふと帽子屋に目をやるが、静かに首を振られた。
すると何か得体の知れない気配を微かに感じた。
『アリスニ、帽子屋…。主ガ読ンデルヨ、ツイテオイデ』
ふわふわと宙に浮く、一匹の白いうさぎの人形。口を閉ざしたままことばを紡ぐ。
そして楽しそうな声色でリズム良く、囁いた。
『捨テラレアリス、独リボッチ、父サンヤメテ!…キャハハハ!』
まるで小さな子供が自分のオモチャを見付けたかの様なはしゃぎよう。甲高い声が頭に木霊する。
思わず耳を塞ぐ。頭がぐるぐるして吐き気が込み上げてきそうだった。
そんなことを考えて、この世界の「普通」に慣れてきていることを実感し焦った。
ふと、とある疑問が浮かぶ。
「チェシャは一番彼女と付き合いが長い。彼は彼女が「生きて」いた「世界」の頃から一緒にいるんだよ」
疑問は浮かんですぐに弾けた。帽子屋は口に出さずとも意思を読み取ってくれる。彼の読心術は大したものだと、毎回思う。
「えっ…じゃあ、あの「猫」は彼なのか?」
「そう…。彼は昔から頭が良くてね、そして人の感情に敏感だ。……そんな彼だから、彼女の側に居れたんだよ」
やさしく、過去の記憶にある顔を思い出す様に、帽子屋は語る。
以前帽子屋が話してくれた、この「セカイ」の創造の話を思い出した。とても可愛らしく愛らしい、優しい少女が考えそうな物語だったのを今でもおぼえている。
女王…この「セカイ」の創造者であり、何処にでもいる儚げなごく普通の少女。
そんな少女にどんなことがあり、どんな思いであの「世界」で過ごしていたのか、彼だけは全て知っている。
彼はどんな気持ちで少女の側に居続けたのだろうか。
「着いてしまった、と言うべきなのか、漸く着いた、と言うべきなのか。…どちらにせよ、いずれは来る運命だったのかもしれない…ね」
思考を遮る様に帽子屋は言った。
自分がどんな表情をしていたか解らないが、きっと酷く情けない顔をしていたのだろう。こちらを見た帽子屋の表情がやわらかく歪んだ。
「………行かなきゃ始まらないし、終わらないんだろうな。さ…、行こう」
帽子屋の表情は、彼の優しいからあんなカオをするんだ。そう考えると、変人なのは優しさからくるものなのかもしれない。
目の前の門に対峙するのは二度目。そしてこれが最後になるんだろう。
門を押す手にゆっくりと力を加える。この前みたいに自ら開かない門はやっぱり重かった。仕方なく思い切り力を込めようとした瞬間、自動で開き始めた。
「え……?」
辺りを探すがアイツはいない。ならば誰が…。ふと帽子屋に目をやるが、静かに首を振られた。
すると何か得体の知れない気配を微かに感じた。
『アリスニ、帽子屋…。主ガ読ンデルヨ、ツイテオイデ』
ふわふわと宙に浮く、一匹の白いうさぎの人形。口を閉ざしたままことばを紡ぐ。
そして楽しそうな声色でリズム良く、囁いた。
『捨テラレアリス、独リボッチ、父サンヤメテ!…キャハハハ!』
まるで小さな子供が自分のオモチャを見付けたかの様なはしゃぎよう。甲高い声が頭に木霊する。
思わず耳を塞ぐ。頭がぐるぐるして吐き気が込み上げてきそうだった。
category: アリス
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18 
2011/05/10 Tue. 08:15 [edit]
ふわり
フワリ
優しくて暖かいのが夢
じゃあこれは?
夢?
いやいや!
悪夢だねッ!!
フワリ
優しくて暖かいのが夢
じゃあこれは?
夢?
いやいや!
悪夢だねッ!!
-- 続きを読む --
頭を掻いたって何かが解決する訳ではないと、解っている。頭ではちゃんと理解出来てるんだ。だけど!
「やらなきゃすまねぇんだよなあ…」
一応、普通通りの脳味噌ではある。このセカイに比べたらまともさ!
それを今、確かなものにするべく歩みを進めた。
小さく開いた扉から微かな光が漏れて、薄暗い廊下が余計薄暗く感じる。頼りなのは所々透かし硝子から漏れる部屋の灯りのみ。
だいたい、廊下に照明が一つもないってどういうこった。
目の前に聳え立つ巨大な扉に手をかけ、全体重をかけて押す。そうして漸く開く扉。ここの住人はいとも簡単に開けてしまうのだが。
中に入ると住人がほぼ勢揃いしていた。
「みな、ありすの意志を読み取って自ら足を運んだんだよ」
不思議に思っていると、読心術の様に帽子屋が答えてくれる。もう慣れた。
このセカイは「アリス」の意志が絶対。
それに沿って住人は動くし、セカイが動く。夢の様な自分中心のセカイ。
だけど、それを望んだ覚えはないんだ。
「じゃあ丁度いいや。ひとつ、はっきりさせたいんだ」
集まった顔を順に見る。どれも一度は顔を合わせたヒトたち。
珍しく起きてるネムリ、騒がないツインズ、やっぱり不機嫌なヤンキー、相変わらず奇抜なオニイサン、変人紳士の帽子屋。
どれもインパクトのある出会い方。そして人物たち。
今思えば、変人だと思ってた自体が間違えだった。ここでは自分の方が変人で、何も知らないヤツ。
「とりあえず、うさぎのトコロに行ってみようと思うんだ」
そしてアイツ。あのオトコが居たから…。
「結局はアイツん所行かないと始まらない気がするんだ」
うさぎが始まりであり、終わりでありそうな気がする。
何処からともなく来る、根拠のない自信だけれど、間違ってはないはず。
これで、少しでも前に進めるのなら。
「良いんじゃないか?特に止める理由はない」
オニイサンは目を伏せながら言った。昨日の事を感じさせない様な静けさを持っていた。
「………あんたは、全て解っていたのか?」
オニイサンの方へ視線を向けると、殆ど無意識の内に零れた。
それをきっかけに溢れ返った様に言葉が出る。
「自分が来る事も、この状況をここの住人たちでは変えられないことも、これから先のことも、……みんな、解ってたのか…?」
周りから物音が一切しない。
広間に居る筈の住人が皆、息を潜めてやり取りを見ている。
このセカイの何かが違い始めているのかもしれない。
「……俺はチェシャ猫だ。うさぎの様に嘘や偽りだけを言ってる訳じゃないが、真実だけとも限らない。…そういう奴だよ、ありす」
そう言って哀しそうに微笑んだ。
その表情は昨日のことを思い出させる。あの、様々な感情に揺らぐ声色。この人も、同じなのかもしれない。
そう思うと少しだけ蟠りが消える。
「そっか……。悪かった、ごめん」
「いや、謝ることじゃない。……俺には導くだけしか出来ない」
苦しそうなことばに、どう返していいかわからなかった。
「……ではアリス、そろそろ向かおうか」
オニイサンとの間に手が差し出される。先を追っていくと、帽子屋だった。
「え…?ついてくんの?」
「どうなるか解らない、だからこそ見届けたい」
最初の住人であるからこそ…。
そう帽子屋は言う。
これは自分だけの問題じゃないのかもしれない。この国の、住人の、そして「アリス」の問題でもある。
自分も行ってみて、何が起こるかは解らなかった。
だから、その言葉が少しだけ心強かった。
「そう。……じゃあ、行こうか」
差し出された手を取る。柔らかく握り返された。これが、帽子屋の優しいトコロ。
握られた手から伝わる温もりで、知らず内に強張っていた身体がほぐれた。
さあ、行こうではないか。
「やらなきゃすまねぇんだよなあ…」
一応、普通通りの脳味噌ではある。このセカイに比べたらまともさ!
それを今、確かなものにするべく歩みを進めた。
小さく開いた扉から微かな光が漏れて、薄暗い廊下が余計薄暗く感じる。頼りなのは所々透かし硝子から漏れる部屋の灯りのみ。
だいたい、廊下に照明が一つもないってどういうこった。
目の前に聳え立つ巨大な扉に手をかけ、全体重をかけて押す。そうして漸く開く扉。ここの住人はいとも簡単に開けてしまうのだが。
中に入ると住人がほぼ勢揃いしていた。
「みな、ありすの意志を読み取って自ら足を運んだんだよ」
不思議に思っていると、読心術の様に帽子屋が答えてくれる。もう慣れた。
このセカイは「アリス」の意志が絶対。
それに沿って住人は動くし、セカイが動く。夢の様な自分中心のセカイ。
だけど、それを望んだ覚えはないんだ。
「じゃあ丁度いいや。ひとつ、はっきりさせたいんだ」
集まった顔を順に見る。どれも一度は顔を合わせたヒトたち。
珍しく起きてるネムリ、騒がないツインズ、やっぱり不機嫌なヤンキー、相変わらず奇抜なオニイサン、変人紳士の帽子屋。
どれもインパクトのある出会い方。そして人物たち。
今思えば、変人だと思ってた自体が間違えだった。ここでは自分の方が変人で、何も知らないヤツ。
「とりあえず、うさぎのトコロに行ってみようと思うんだ」
そしてアイツ。あのオトコが居たから…。
「結局はアイツん所行かないと始まらない気がするんだ」
うさぎが始まりであり、終わりでありそうな気がする。
何処からともなく来る、根拠のない自信だけれど、間違ってはないはず。
これで、少しでも前に進めるのなら。
「良いんじゃないか?特に止める理由はない」
オニイサンは目を伏せながら言った。昨日の事を感じさせない様な静けさを持っていた。
「………あんたは、全て解っていたのか?」
オニイサンの方へ視線を向けると、殆ど無意識の内に零れた。
それをきっかけに溢れ返った様に言葉が出る。
「自分が来る事も、この状況をここの住人たちでは変えられないことも、これから先のことも、……みんな、解ってたのか…?」
周りから物音が一切しない。
広間に居る筈の住人が皆、息を潜めてやり取りを見ている。
このセカイの何かが違い始めているのかもしれない。
「……俺はチェシャ猫だ。うさぎの様に嘘や偽りだけを言ってる訳じゃないが、真実だけとも限らない。…そういう奴だよ、ありす」
そう言って哀しそうに微笑んだ。
その表情は昨日のことを思い出させる。あの、様々な感情に揺らぐ声色。この人も、同じなのかもしれない。
そう思うと少しだけ蟠りが消える。
「そっか……。悪かった、ごめん」
「いや、謝ることじゃない。……俺には導くだけしか出来ない」
苦しそうなことばに、どう返していいかわからなかった。
「……ではアリス、そろそろ向かおうか」
オニイサンとの間に手が差し出される。先を追っていくと、帽子屋だった。
「え…?ついてくんの?」
「どうなるか解らない、だからこそ見届けたい」
最初の住人であるからこそ…。
そう帽子屋は言う。
これは自分だけの問題じゃないのかもしれない。この国の、住人の、そして「アリス」の問題でもある。
自分も行ってみて、何が起こるかは解らなかった。
だから、その言葉が少しだけ心強かった。
「そう。……じゃあ、行こうか」
差し出された手を取る。柔らかく握り返された。これが、帽子屋の優しいトコロ。
握られた手から伝わる温もりで、知らず内に強張っていた身体がほぐれた。
さあ、行こうではないか。
category: アリス
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17 
2011/05/10 Tue. 08:14 [edit]
ぐちゃぐちゃと赤でかき乱したような頭の中
解ることは少なく
解らないことは膨大
ちゃんと働くことが出来ない頭が
漸く導き出したものは
解ることは少なく
解らないことは膨大
ちゃんと働くことが出来ない頭が
漸く導き出したものは
-- 続きを読む --
帽子屋の話を要約すると、ここはある少女の精神が造り上げた世界で、実在するものではない。そしてここの住人は実在しなくなってしまったもの(出来なくなったものともいう)。
そんなトコロに自分は住人の様に導かれてやってきた。
話をまとめることは出来る。話してもらったことを整理するだけの事だから。
だが、そうすると理解出来ないことが出て来る。理屈ではないこと。
精神が造り出したものが何故、こんなにまでもリアルなのか。
少女の身体は何処へいってしまったのか。
何故この世界に迷うと身体がなくなるのか。
色々思い付くが、結局のところ科学的じゃない。そして現実的じゃない。
「あー、もうッわっかんねぇよ…ッ!」
ぐしゃぐしゃと頭をかきむしった。それでこの現状がどうにかなる訳じゃないんだけど、今の自分にはどうしようもなかった。
わからない。けどわからなくもない。
精神世界云々ではなく、少女が何を想い、こんな世界を造り上げてたのか、は。
けど………
「もー、わかっかんねー…」
「わかるさ」
「ッ!!?」
突然頭上から声が降って来た。聞こえるというより降って来る。
よく聞くと、あの奇抜な服のオニイサンだった。
「怖がらせたか?すまないな」
「あ…、いや、そんなでも…」
姿は見えないのに、感情が全て読み取れる。まるで近くに居るような感覚。
気が付いたら染み込む様な安堵感に浸っていた。
「……アリス、ここは君の国だ。願えば何でも叶う、思うがままだ」
――リン…
オニイサンはそう零す。何処からか鈴の音が響く。
独り言のようなか細い声。そう拾うだけで精一杯だった。
「…え?」
「困ってるんだろ?悩んでるんだろ?なら考えなければいい」
先ほどの声色とは一転し、明るい感情が溢れる。それをただ呆然と受け取る。
だけど、言ってることはめちゃくちゃだった。
「……なん、だよ…。そんなこと、出来る訳ないじゃないか…」
明るい色が段々薄れていく。
オニイサンさんの声が、色を奪い始めた。
「簡単なことさ、幸せに逃げればいい」
カンタンナコトサ、シアワセニニゲレバイイ
魅惑のコトバ。
とても甘くて美しいコトバ。
だけど、甘美なコトバはヒトを惑わすだけでしかない。危うく歩みが後退するところだった。
しっかりと頭が働いてる事を確認し、口を開く。色が徐々に明るさを取り戻す。
「……苦しいことがあって、そこで初めてしあわせに繋がるんだ」
まだいける。こんなコトバに自我を失ったりはしない。しっかりとした意志を持ってる。
「なら、あのセカイはどうだった?」
「あの世界は苦しい事ばかりだったよ」
だから幸せだった。
あの世界、…居たはずの、存在したはずの世界。そこでの暮らしは苦もあって幸もある生活だった。
「…それでも幸せだと言えた?」
声色が弱々しくなる。
何を考えて不安に、哀しく思ったのか、あおの感情が読み取れた。
「…ここはアリスの思うがままだ。俺も居る、アリスを想う奴しかいない。そんなトコロなのに、それだけでは不満なのか。……君は案外欲張りなんだな」
段々と強い意志を持った声色に変わる。まるで環境に左右される情緒の如く…。
突然揺れ始めた感情に驚きつつオニイサンのことばに答える。
「欲張りと言われたらそうかもしれない。だけど、人間ってそんなもんだろ?…誰だって欲に飢えてる。だからこそ生きていけるんだ」
「…………なら、何で逃げてきた」
ポツリ、と零された。
まるで独り言のような小さな声。だけど、しっかりと聞き取れた。
「逃げ…る、て…?」
「世界からさ」
「…なんだ、よ、それ…。言ってる意味が…解らない…」
突然、恐怖が纏わりつく。全身が包まれて、染み込んでくる感覚。以前も感じたことのある感覚に震え上がりそうだった。
「気付いてない?いや、そうじゃない。気付いてないフリをしてるんだ」
「……何が、言いたいんだよ」
ふと、オニイサンが笑った。そんな風に感じた。
「そのままさ。…気をつけて、甘い言葉には裏があるよ」
そう言い終えると、オニイサンの気配が消えた。どうやら言いたいことは言えた様だ。おかげでこっちは頭パンク寸前だが。
ぐらあ、と世界が歪む。
ああ、またこの感覚…。
身体が動くまま瞼を閉じ、視界を遮断した。
そんなトコロに自分は住人の様に導かれてやってきた。
話をまとめることは出来る。話してもらったことを整理するだけの事だから。
だが、そうすると理解出来ないことが出て来る。理屈ではないこと。
精神が造り出したものが何故、こんなにまでもリアルなのか。
少女の身体は何処へいってしまったのか。
何故この世界に迷うと身体がなくなるのか。
色々思い付くが、結局のところ科学的じゃない。そして現実的じゃない。
「あー、もうッわっかんねぇよ…ッ!」
ぐしゃぐしゃと頭をかきむしった。それでこの現状がどうにかなる訳じゃないんだけど、今の自分にはどうしようもなかった。
わからない。けどわからなくもない。
精神世界云々ではなく、少女が何を想い、こんな世界を造り上げてたのか、は。
けど………
「もー、わかっかんねー…」
「わかるさ」
「ッ!!?」
突然頭上から声が降って来た。聞こえるというより降って来る。
よく聞くと、あの奇抜な服のオニイサンだった。
「怖がらせたか?すまないな」
「あ…、いや、そんなでも…」
姿は見えないのに、感情が全て読み取れる。まるで近くに居るような感覚。
気が付いたら染み込む様な安堵感に浸っていた。
「……アリス、ここは君の国だ。願えば何でも叶う、思うがままだ」
――リン…
オニイサンはそう零す。何処からか鈴の音が響く。
独り言のようなか細い声。そう拾うだけで精一杯だった。
「…え?」
「困ってるんだろ?悩んでるんだろ?なら考えなければいい」
先ほどの声色とは一転し、明るい感情が溢れる。それをただ呆然と受け取る。
だけど、言ってることはめちゃくちゃだった。
「……なん、だよ…。そんなこと、出来る訳ないじゃないか…」
明るい色が段々薄れていく。
オニイサンさんの声が、色を奪い始めた。
「簡単なことさ、幸せに逃げればいい」
カンタンナコトサ、シアワセニニゲレバイイ
魅惑のコトバ。
とても甘くて美しいコトバ。
だけど、甘美なコトバはヒトを惑わすだけでしかない。危うく歩みが後退するところだった。
しっかりと頭が働いてる事を確認し、口を開く。色が徐々に明るさを取り戻す。
「……苦しいことがあって、そこで初めてしあわせに繋がるんだ」
まだいける。こんなコトバに自我を失ったりはしない。しっかりとした意志を持ってる。
「なら、あのセカイはどうだった?」
「あの世界は苦しい事ばかりだったよ」
だから幸せだった。
あの世界、…居たはずの、存在したはずの世界。そこでの暮らしは苦もあって幸もある生活だった。
「…それでも幸せだと言えた?」
声色が弱々しくなる。
何を考えて不安に、哀しく思ったのか、あおの感情が読み取れた。
「…ここはアリスの思うがままだ。俺も居る、アリスを想う奴しかいない。そんなトコロなのに、それだけでは不満なのか。……君は案外欲張りなんだな」
段々と強い意志を持った声色に変わる。まるで環境に左右される情緒の如く…。
突然揺れ始めた感情に驚きつつオニイサンのことばに答える。
「欲張りと言われたらそうかもしれない。だけど、人間ってそんなもんだろ?…誰だって欲に飢えてる。だからこそ生きていけるんだ」
「…………なら、何で逃げてきた」
ポツリ、と零された。
まるで独り言のような小さな声。だけど、しっかりと聞き取れた。
「逃げ…る、て…?」
「世界からさ」
「…なんだ、よ、それ…。言ってる意味が…解らない…」
突然、恐怖が纏わりつく。全身が包まれて、染み込んでくる感覚。以前も感じたことのある感覚に震え上がりそうだった。
「気付いてない?いや、そうじゃない。気付いてないフリをしてるんだ」
「……何が、言いたいんだよ」
ふと、オニイサンが笑った。そんな風に感じた。
「そのままさ。…気をつけて、甘い言葉には裏があるよ」
そう言い終えると、オニイサンの気配が消えた。どうやら言いたいことは言えた様だ。おかげでこっちは頭パンク寸前だが。
ぐらあ、と世界が歪む。
ああ、またこの感覚…。
身体が動くまま瞼を閉じ、視界を遮断した。
category: アリス
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2011/05/10 Tue. 08:13 [edit]
かちり、かちり
と
話が繋がる
ものがたり
が、
加速していく…
と
話が繋がる
ものがたり
が、
加速していく…
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あるところに気の弱い、可愛らしい少女がいました。
その少女は夢を見るのがとても好きでした。
ある日、少女は夢を持ちました。とても可愛らしい夢です。そして儚いゆめでもありました。
「みんなが、わたしをすきになればいいのに…」
少女のその夢は、唯一の友達であり、愛猫のチェシャにしか打ち明けたことがありませんでした。
チェシャはとても賢い子で、少女の言うことが全て解っていました。
毎日可愛らしい夢をチェシャに話す少女、チェシャは少女の話す夢が実現すれば良いのに、と話を聞く度思っていました。チェシャにとって少女の幸せはチェシャの幸せでした。
ですが、日に日に少女は元気を無くしていきました。この世界の重みに耐えられなくなってきたようです。
少女はどんどん魂が抜けたような姿になっていきます。そんな少女の傍らにはどんな時もチェシャが居て、少女を励ましました。
けれど、チェシャの励ましも空しく、少女の心はからっぽになりました。
そしてある日、少女はコワレテシマイマシタ…。
「もういやっ夢のセカイがいいッ!!」
そうして少女は夢のセカイに籠ってしまいました。けれど、誰も少女を助けることはありませんでした。
夢のセカイは少女がスベテです。彼女が望むものはすべて手に入りました。
そして、少女の周りには少女を想うヒトたちがいました。
少女を導くチェシャ猫、少女を支える帽子屋、少女を包み込むうさぎ。
みんな、少女が大好きで、あいしていました。
毎日飽きるほどお茶会を開き、楽しく騒ぎ、踊り、歌いました。なので少女は寂しくなんかありませんでした。
いつしか、少女は自らを「アリス」と名乗るようになりました。もちろん、本当の名前ではありません。
始めはチェシャたちも困惑しましたが、「アリス」と呼ばないと反応しなくなっていった為、自然とそう呼ぶ様になりました。
そして、あの日がやってきたのです。
うさぎが「アリス」のココロを全て支配しました。もうこの世界はうさぎの手の中。
「アリス」とうさぎが惹かれあっていたのは、他者の目から見ても一目瞭然でした。そう、解っていてチェシャたちは見守っていた筈なのに…。
うさぎの歪んだ愛が行き過ぎ、「アリス」が居なくなってしまったのです。もう、どうしようもありませんでした。
世界はどんよりとした暗いものに包まれ、「アリス」はうさぎと共に城に籠りっきり。
どんどん、世界が闇へと近付いていきました。
そんなある時、一人の子供がセカイにやってきました。どうやら「アリス」のココロの欠片が子供を引き寄せた様でした。
「アリス」の二の舞いにさせまい、とチェシャと帽子屋は働きました。ですがその甲斐も虚しく、子供はうさぎに心を空っぽにされてしまいました。
心が空っぽな子供は元いたセカイを忘れてしまい、ここの住人に成らざる負えませんでした。
こうしてネムリネズミと三月うさぎと双子がこの世界に誕生しました。
そして同時に「アリス」の為のセカイ、「アリスの国」が出来上がった瞬間でもありました。
そんな時にやってきたのが……
「君なんだよ、ありす」
帽子屋のその一言で一気に現実へ引き戻された。
意識は戻って来たが、どうして良いか解らなくて困惑していたら帽子屋が口を開いた。
「君は今までのアリスとは違う。ちゃんと意志を持って、うさぎと対立している。……そんな君が何故このセカイへやって来たんだろうね」
困った様に笑いながら帽子屋はそう言った。何が同じで何が違うのか、その時の自分は判断がつかなかったのだろう、頭を抱えて帽子屋の話を整理するしかなかった。
「………少しの間…、一人にさせてくれ」
それが、漸く絞り出せたヒトコトだった。
その少女は夢を見るのがとても好きでした。
ある日、少女は夢を持ちました。とても可愛らしい夢です。そして儚いゆめでもありました。
「みんなが、わたしをすきになればいいのに…」
少女のその夢は、唯一の友達であり、愛猫のチェシャにしか打ち明けたことがありませんでした。
チェシャはとても賢い子で、少女の言うことが全て解っていました。
毎日可愛らしい夢をチェシャに話す少女、チェシャは少女の話す夢が実現すれば良いのに、と話を聞く度思っていました。チェシャにとって少女の幸せはチェシャの幸せでした。
ですが、日に日に少女は元気を無くしていきました。この世界の重みに耐えられなくなってきたようです。
少女はどんどん魂が抜けたような姿になっていきます。そんな少女の傍らにはどんな時もチェシャが居て、少女を励ましました。
けれど、チェシャの励ましも空しく、少女の心はからっぽになりました。
そしてある日、少女はコワレテシマイマシタ…。
「もういやっ夢のセカイがいいッ!!」
そうして少女は夢のセカイに籠ってしまいました。けれど、誰も少女を助けることはありませんでした。
夢のセカイは少女がスベテです。彼女が望むものはすべて手に入りました。
そして、少女の周りには少女を想うヒトたちがいました。
少女を導くチェシャ猫、少女を支える帽子屋、少女を包み込むうさぎ。
みんな、少女が大好きで、あいしていました。
毎日飽きるほどお茶会を開き、楽しく騒ぎ、踊り、歌いました。なので少女は寂しくなんかありませんでした。
いつしか、少女は自らを「アリス」と名乗るようになりました。もちろん、本当の名前ではありません。
始めはチェシャたちも困惑しましたが、「アリス」と呼ばないと反応しなくなっていった為、自然とそう呼ぶ様になりました。
そして、あの日がやってきたのです。
うさぎが「アリス」のココロを全て支配しました。もうこの世界はうさぎの手の中。
「アリス」とうさぎが惹かれあっていたのは、他者の目から見ても一目瞭然でした。そう、解っていてチェシャたちは見守っていた筈なのに…。
うさぎの歪んだ愛が行き過ぎ、「アリス」が居なくなってしまったのです。もう、どうしようもありませんでした。
世界はどんよりとした暗いものに包まれ、「アリス」はうさぎと共に城に籠りっきり。
どんどん、世界が闇へと近付いていきました。
そんなある時、一人の子供がセカイにやってきました。どうやら「アリス」のココロの欠片が子供を引き寄せた様でした。
「アリス」の二の舞いにさせまい、とチェシャと帽子屋は働きました。ですがその甲斐も虚しく、子供はうさぎに心を空っぽにされてしまいました。
心が空っぽな子供は元いたセカイを忘れてしまい、ここの住人に成らざる負えませんでした。
こうしてネムリネズミと三月うさぎと双子がこの世界に誕生しました。
そして同時に「アリス」の為のセカイ、「アリスの国」が出来上がった瞬間でもありました。
そんな時にやってきたのが……
「君なんだよ、ありす」
帽子屋のその一言で一気に現実へ引き戻された。
意識は戻って来たが、どうして良いか解らなくて困惑していたら帽子屋が口を開いた。
「君は今までのアリスとは違う。ちゃんと意志を持って、うさぎと対立している。……そんな君が何故このセカイへやって来たんだろうね」
困った様に笑いながら帽子屋はそう言った。何が同じで何が違うのか、その時の自分は判断がつかなかったのだろう、頭を抱えて帽子屋の話を整理するしかなかった。
「………少しの間…、一人にさせてくれ」
それが、漸く絞り出せたヒトコトだった。
category: アリス
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