オンエア
創作文芸ブログ
「Smiliy:)18」 
2013/11/17 Sun. 01:24 [edit]
ふふん(ノ)'ω`(ヾ)
-- 続きを読む --
雑音がシャットダウンされたとしても、人が聴く音はなくなりはしない。それは心音であり、息遣いであり。
人が音を聴くものと思っているのと同じで、音もまた、人がいるから聴こえるものである。
***
「さて、無事に卒業できて、高校生の称号も残り数日ということになりましたが」
「シャッフルしよ!!」
「人の話は最後まで聞こうねってなぜ知らないッ!!しつけてないのか!?」
「あたしに言わないでよ」
「知りませーん。母親でも保護者でもないんで」
「英治もめぐも同じ気あるだろ。似た者同士」
「シャッフルーーーーッ!!!」
「ヘドバンでもして脳みその位置をシャッフルしてなさいッ」
「シャッフルって面白そうだけど、凛も英治も有利だよね。初心者じゃないし」
「あ、そっか」
「タンバリンでも追加するか?」
「とりあえず、二人だけは担当楽器増やすとかどうよ」
「いーねぇ」
「いぎなーし!」
「勝手に話を進めるなって!」
「いいんじゃない?アルバムの一曲ぐらいは遊んだって。せっかく出すなら楽しいもの出そうよ」
「お前は敵だったのか…」
「味方のつもりもないけどね」
「ヒドッ」
「英治ぼっちー!!」
「うるさい五才児」
「ぼーりょくだ!ことばのぼーりょくだ!!」
「はいっ、あみだー!」
「えっ茜仕事早すぎ」
「やだ……、そんなに褒めないでよ」
「褒めてないし、顔赤めないでくれるかな?」
録音する訳でも、新曲を作る訳でもなく。わたしたちはよく、理由も付けずにスタジオを借りてはこうして集まった。現在では、レーベルのスタジオを借りられることになり、以前よりも集まりが多くなったように思う。
スタジオには決まって、人数分のイスと小さくて背の高いまあるいテーブルが転がるように端っこで構えている。大してクッションのない簡易のイスに、各々の楽器を抱えながら、何をする訳でもなく談笑をしている。この時間が、もしかしたらわたしたちのバンドにとっては一番大事なのかもしれない。
茜が内職のように書き進めていたのは、よくみかけるあみだの形をしたもの。しかし、やけにグネグネ、線と線の間の線が行き交っていた。一見しただけではどこに繋がっているか判別がつかない。
晴れやかな笑みのまま五色のカラーマーカーを持った茜は、それぞれにペンを差し出してはあみだくじの位置決めを始めた。この頃には、事は茜が全て握っていた。元々一番は誰、言い始めは誰、というもの決まっているわけではない仲なので、順番に関してはさほど気にせず事はどんどん進んで行った。
「はい、めぐが最後ね」
円形に並んで座っていたせいか、茜から時計回りに左へ左へ回って行き、最後の一本はわたしだった。蛍光ピンクのマーカーで残った線に印をつけて、小さな円卓に紙を戻す。茜が円卓をわたしたちの中心部に配置し直す。自然とそれぞれがイスを持って中心に集まった。
「…ん、出たね。私と恭はギターで、凛はキーボとタンバリン、英治がドラムとトライアングル、めぐはベースだね。…異議は?」
茜が辺りを見渡す。しかし挙手も声も上がらない。
「じゃっ決定、ていうことで!」
「異議はないけど、こんなに上手いことドラムとキーボに仕事回ってくるかぁ?」
「いちゃもんつけるなら自分で確かめてみなよ」
「いちゃもんでもねぇからな!」
「ま、そんなもんでしょ。ていうか、タンバリンとトライアングルって今まで考えたことなかったじゃん?」
「うん!思った!あたらしい!」
「負荷がいいアイディアになりそうでなにより」
「さすが恭さまさま」
「褒め称えたって構わないからな」
「珍しく鼻高々じゃん」
「こんな時ぐらいはな」
「ったく…したらば、大いに遊んでやるからな。曲合わせいくぞ、準備!」
「慣れる時間くらいちょーだいよ!」
「問答無用!」
「おにっ!!」
各々が担当する楽器を持ち始める。曲合わせとは、作曲者が持ち込んだ曲を膨らましていく作業のことで、今日は英治が作った曲に肉付けする日だった。
触ったこともないベースを茜から受け取り、形を確かめる。形状はどことなくギターに似ているけれどやっぱり違う。相棒よりも重いそれを持ちながら、英治の方へ向く。
実は面白い曲出来たんだよ、とぶーたれた様子もなく、いつもの彼がそこに居て言う。ドラムセットの前に座る彼が見慣れなくて少し笑ってしまう。みんなもそう感じているのか一方方向を向いてむずがゆそうな顔をしていた。
多数がぎこちない音を出す。どの楽器にもそれなりの慣れがある二人とは違って、担当楽器以外触れる機会すら少ないのだから下手も下手。けれど、下手なりの音が出ていて、わたしは嬉しくなった。
相棒とはまた違う音が鳴るこの楽器はわたしの感覚を刺激し、固まりかけていたモノを変形させる。柔らかく、そしていて伸びがいい茜の相棒は、わたしの中で化学反応を何度も起こした。その度にいいリフが生まれ、いい音が先へ先へと走る。そしてメロディが生まれる。
絶えず音が鳴り響いていた。
「きらきら!キラキラしてるよ!この曲!」
「青春色、みたいなね」
「うわ…甘いなぁ」
「甘いこと言える最後の機会だろ。若さを全面に、な」
「今しか作れない音ってことだね」
***
春が来て、桜が散る。時間は過ぎる。
一つの節目を迎えて、他方を向いていた視線が一点を見つめるようになる。歩み出す。進めば、太く大きく道が開けてくる。
歩く音がする。音階の異なる、そしていて強さも違う音たち。五人それぞれの音が、わたしを包む。
音は、消えることはない。
fin.
(ファンデーション/BIGMAMA)
人が音を聴くものと思っているのと同じで、音もまた、人がいるから聴こえるものである。
***
「さて、無事に卒業できて、高校生の称号も残り数日ということになりましたが」
「シャッフルしよ!!」
「人の話は最後まで聞こうねってなぜ知らないッ!!しつけてないのか!?」
「あたしに言わないでよ」
「知りませーん。母親でも保護者でもないんで」
「英治もめぐも同じ気あるだろ。似た者同士」
「シャッフルーーーーッ!!!」
「ヘドバンでもして脳みその位置をシャッフルしてなさいッ」
「シャッフルって面白そうだけど、凛も英治も有利だよね。初心者じゃないし」
「あ、そっか」
「タンバリンでも追加するか?」
「とりあえず、二人だけは担当楽器増やすとかどうよ」
「いーねぇ」
「いぎなーし!」
「勝手に話を進めるなって!」
「いいんじゃない?アルバムの一曲ぐらいは遊んだって。せっかく出すなら楽しいもの出そうよ」
「お前は敵だったのか…」
「味方のつもりもないけどね」
「ヒドッ」
「英治ぼっちー!!」
「うるさい五才児」
「ぼーりょくだ!ことばのぼーりょくだ!!」
「はいっ、あみだー!」
「えっ茜仕事早すぎ」
「やだ……、そんなに褒めないでよ」
「褒めてないし、顔赤めないでくれるかな?」
録音する訳でも、新曲を作る訳でもなく。わたしたちはよく、理由も付けずにスタジオを借りてはこうして集まった。現在では、レーベルのスタジオを借りられることになり、以前よりも集まりが多くなったように思う。
スタジオには決まって、人数分のイスと小さくて背の高いまあるいテーブルが転がるように端っこで構えている。大してクッションのない簡易のイスに、各々の楽器を抱えながら、何をする訳でもなく談笑をしている。この時間が、もしかしたらわたしたちのバンドにとっては一番大事なのかもしれない。
茜が内職のように書き進めていたのは、よくみかけるあみだの形をしたもの。しかし、やけにグネグネ、線と線の間の線が行き交っていた。一見しただけではどこに繋がっているか判別がつかない。
晴れやかな笑みのまま五色のカラーマーカーを持った茜は、それぞれにペンを差し出してはあみだくじの位置決めを始めた。この頃には、事は茜が全て握っていた。元々一番は誰、言い始めは誰、というもの決まっているわけではない仲なので、順番に関してはさほど気にせず事はどんどん進んで行った。
「はい、めぐが最後ね」
円形に並んで座っていたせいか、茜から時計回りに左へ左へ回って行き、最後の一本はわたしだった。蛍光ピンクのマーカーで残った線に印をつけて、小さな円卓に紙を戻す。茜が円卓をわたしたちの中心部に配置し直す。自然とそれぞれがイスを持って中心に集まった。
「…ん、出たね。私と恭はギターで、凛はキーボとタンバリン、英治がドラムとトライアングル、めぐはベースだね。…異議は?」
茜が辺りを見渡す。しかし挙手も声も上がらない。
「じゃっ決定、ていうことで!」
「異議はないけど、こんなに上手いことドラムとキーボに仕事回ってくるかぁ?」
「いちゃもんつけるなら自分で確かめてみなよ」
「いちゃもんでもねぇからな!」
「ま、そんなもんでしょ。ていうか、タンバリンとトライアングルって今まで考えたことなかったじゃん?」
「うん!思った!あたらしい!」
「負荷がいいアイディアになりそうでなにより」
「さすが恭さまさま」
「褒め称えたって構わないからな」
「珍しく鼻高々じゃん」
「こんな時ぐらいはな」
「ったく…したらば、大いに遊んでやるからな。曲合わせいくぞ、準備!」
「慣れる時間くらいちょーだいよ!」
「問答無用!」
「おにっ!!」
各々が担当する楽器を持ち始める。曲合わせとは、作曲者が持ち込んだ曲を膨らましていく作業のことで、今日は英治が作った曲に肉付けする日だった。
触ったこともないベースを茜から受け取り、形を確かめる。形状はどことなくギターに似ているけれどやっぱり違う。相棒よりも重いそれを持ちながら、英治の方へ向く。
実は面白い曲出来たんだよ、とぶーたれた様子もなく、いつもの彼がそこに居て言う。ドラムセットの前に座る彼が見慣れなくて少し笑ってしまう。みんなもそう感じているのか一方方向を向いてむずがゆそうな顔をしていた。
多数がぎこちない音を出す。どの楽器にもそれなりの慣れがある二人とは違って、担当楽器以外触れる機会すら少ないのだから下手も下手。けれど、下手なりの音が出ていて、わたしは嬉しくなった。
相棒とはまた違う音が鳴るこの楽器はわたしの感覚を刺激し、固まりかけていたモノを変形させる。柔らかく、そしていて伸びがいい茜の相棒は、わたしの中で化学反応を何度も起こした。その度にいいリフが生まれ、いい音が先へ先へと走る。そしてメロディが生まれる。
絶えず音が鳴り響いていた。
「きらきら!キラキラしてるよ!この曲!」
「青春色、みたいなね」
「うわ…甘いなぁ」
「甘いこと言える最後の機会だろ。若さを全面に、な」
「今しか作れない音ってことだね」
***
春が来て、桜が散る。時間は過ぎる。
一つの節目を迎えて、他方を向いていた視線が一点を見つめるようになる。歩み出す。進めば、太く大きく道が開けてくる。
歩く音がする。音階の異なる、そしていて強さも違う音たち。五人それぞれの音が、わたしを包む。
音は、消えることはない。
fin.
(ファンデーション/BIGMAMA)
category: Smiliy
tb: -- cm: 0
「Smiliy:)17」 
2013/04/20 Sat. 00:27 [edit]
チッチキチー!
勢いって大事。
勢いって大事。
-- 続きを読む --
「ぷはっ」
「顔真っ赤だねぇ」
「ど!きんちょーッ!」
蛍光灯丸出しの灯りを浴びなからステッカーやらくがきだらけの一室に引きこもる。この部屋の出入口は二つ。一つは一般的な引き戸で、もう一方は扉がなく、黒い幕がただ上から垂れ下がってるだけ。その幕の向こう側からは人の気配が感じられる。ホームルーム前の教室はこんなざわめきだったな、とうるさい心臓を抱えながら思った。
「りんはさ!どう?」
「どうって……まあ、それなりに緊張してるかな」
一人でどうしようもない緊張感を抱きながら隣りに座るりんに尋ねる。わたしが見るからに彼女はいつもと大差ない様子だった。その顔から出た言葉は想像通りの返答で、経験がその理由を物語っている。
りんは中学生の頃、自身が所属していたバンドで何度かライブを経験していた。父親が協力的ということもあり、ライブハウスでの本格的なライブだったらしい。文化祭でやった時に、小慣れた感が漂っていたのはその所為だったのかと納得させられた。
「めぐ、凛に緊張感を強要したって無駄だって」
「あ、そっか」
「おいこら、それは聞き捨てならないなあ。わたしだってそれなりに緊張するっつーの」
「ははっ!」
あかねなりにりんの経験をありがたく感じているのだろう。茶々を入れながらも、笑顔が絶えない。
これは互いに笑い合って固まってしまいそうな表情筋をほぐそうという、わたしたちの作戦だった。
「学芸会なら他でやれよー」
ライブハウスのスタッフと何か話し合っていた英治がいつの間にか会話の中に入ってくる。にやりと口角が右上がりだった。全てが上手く行っているようだ。
こうして英治がちょっかい出してくる時は、機嫌が良い時。わたしは口を開いた。
「英治こそ、リサイタルは他でやりなよー!」
「誰のリサイタルだボケ」
「お前ならどっちかっていうとワンマンショーだしな」
わたしたちのやり取りを見守っていただけの恭が援護射撃を打ち放ち、茶髪の少年の背中にぶち当たる。私たちは笑転げた。
部屋中が笑に包まれる。最高に楽しかった。
「くっ……、ワンマンショーもイイとか思ってしまった」
「ま、やるんだったら見てやらんこともないぞ」
「あ!わたしも見たい!」
「見たいねぇ、……タダで」
「えっ?やるんなら私たちはタダでしょ、モチロン」
「お前ら言いたい放題言いやがって…!やるんならお前らが前座だあほっ!」
何か発せられればそれに応える。小さな鳥たちが会話するとすればこんな風に音が絶えないのだろう。
ソファに腰かける身体は、いつの間にか頭から足先までリラックスしていた。
「……あ、これ」
突然、あかねが声を上げる。それに反応して皆があかねを見るが、彼女の視線は黒い幕の外を見ていた。
「どうしたの?」
「ふふっ……チューニングとマイクテストだ」
相変わらず外からは人の気配が途絶えない。ざわめきの中で何か他のことをしても、些細なことでは気付くことは出来ない。
その中で、きっとあの先は薄暗闇なんだろう、スタッフの手によってライブ直前のテストが行われていた。気持ちが高揚していくのが、顔の熱と心臓の高鳴りから嫌でもわかってしまう。少しの緊張と、感じたことのない震えを全身で体験した。
「…はじ、まるの?」
「ああ、やるぞ」
チューニングが終われば個々の息を整え、ここを飛び出すだけ。もう、数分もない。
わたしの独り言に英治が答えた。その言葉を合図にするように、互いが互いの顔を見合い、頷く。
今までこの日の為に溜めてきた思いを三十分程のステージで出し尽くし、積み上げられたステップを駆け上がるのだと思った。不安、歓喜、感情のブレ全てがひとつの思いとなって相棒から放射されるなんて、想像しただけで飛べそうな気がする。
こんがらがった何とも表現出来ない感情はわたしを浮き足出させ、自然と笑顔にさせた。
「…何だかんだ、恩が一番楽しそうだよな」
「にひーっ!持ち味!」
立ち上がれば前に英治がひょろりと立つ。ブイサインと共に答えれば頭を撫でられた。
「さッ!泣いても笑っても、これがリメイカ初のライブだ。最高のライブにすんぞッ!」
黒い幕の前にぞろぞろ集まり、英治の声に耳を預ける。幕の向こうの世界は見たことない未知の世界で、さっきまでスタッフの人が出していた物音はいつの間にかしなくなっていた。
お揃いのバンドTシャツに身を包み、わたしたちは上にうえに腕を掲げる。そしてメンバー全員と固く握った拳をぶつけ合った。何かをする前、終わった後。気持ちが昂ってたまらない時、こうしてそれぞれの拳から痛みを貰う。誰が始めたのか、アドレナリンが大量に出てしまった頭は覚えていなかった。
今日もまた、痛い。
***
「いこう!」
弾けるようにその部屋を後にした。
next.
(壊れた翼/knotlamp)
「顔真っ赤だねぇ」
「ど!きんちょーッ!」
蛍光灯丸出しの灯りを浴びなからステッカーやらくがきだらけの一室に引きこもる。この部屋の出入口は二つ。一つは一般的な引き戸で、もう一方は扉がなく、黒い幕がただ上から垂れ下がってるだけ。その幕の向こう側からは人の気配が感じられる。ホームルーム前の教室はこんなざわめきだったな、とうるさい心臓を抱えながら思った。
「りんはさ!どう?」
「どうって……まあ、それなりに緊張してるかな」
一人でどうしようもない緊張感を抱きながら隣りに座るりんに尋ねる。わたしが見るからに彼女はいつもと大差ない様子だった。その顔から出た言葉は想像通りの返答で、経験がその理由を物語っている。
りんは中学生の頃、自身が所属していたバンドで何度かライブを経験していた。父親が協力的ということもあり、ライブハウスでの本格的なライブだったらしい。文化祭でやった時に、小慣れた感が漂っていたのはその所為だったのかと納得させられた。
「めぐ、凛に緊張感を強要したって無駄だって」
「あ、そっか」
「おいこら、それは聞き捨てならないなあ。わたしだってそれなりに緊張するっつーの」
「ははっ!」
あかねなりにりんの経験をありがたく感じているのだろう。茶々を入れながらも、笑顔が絶えない。
これは互いに笑い合って固まってしまいそうな表情筋をほぐそうという、わたしたちの作戦だった。
「学芸会なら他でやれよー」
ライブハウスのスタッフと何か話し合っていた英治がいつの間にか会話の中に入ってくる。にやりと口角が右上がりだった。全てが上手く行っているようだ。
こうして英治がちょっかい出してくる時は、機嫌が良い時。わたしは口を開いた。
「英治こそ、リサイタルは他でやりなよー!」
「誰のリサイタルだボケ」
「お前ならどっちかっていうとワンマンショーだしな」
わたしたちのやり取りを見守っていただけの恭が援護射撃を打ち放ち、茶髪の少年の背中にぶち当たる。私たちは笑転げた。
部屋中が笑に包まれる。最高に楽しかった。
「くっ……、ワンマンショーもイイとか思ってしまった」
「ま、やるんだったら見てやらんこともないぞ」
「あ!わたしも見たい!」
「見たいねぇ、……タダで」
「えっ?やるんなら私たちはタダでしょ、モチロン」
「お前ら言いたい放題言いやがって…!やるんならお前らが前座だあほっ!」
何か発せられればそれに応える。小さな鳥たちが会話するとすればこんな風に音が絶えないのだろう。
ソファに腰かける身体は、いつの間にか頭から足先までリラックスしていた。
「……あ、これ」
突然、あかねが声を上げる。それに反応して皆があかねを見るが、彼女の視線は黒い幕の外を見ていた。
「どうしたの?」
「ふふっ……チューニングとマイクテストだ」
相変わらず外からは人の気配が途絶えない。ざわめきの中で何か他のことをしても、些細なことでは気付くことは出来ない。
その中で、きっとあの先は薄暗闇なんだろう、スタッフの手によってライブ直前のテストが行われていた。気持ちが高揚していくのが、顔の熱と心臓の高鳴りから嫌でもわかってしまう。少しの緊張と、感じたことのない震えを全身で体験した。
「…はじ、まるの?」
「ああ、やるぞ」
チューニングが終われば個々の息を整え、ここを飛び出すだけ。もう、数分もない。
わたしの独り言に英治が答えた。その言葉を合図にするように、互いが互いの顔を見合い、頷く。
今までこの日の為に溜めてきた思いを三十分程のステージで出し尽くし、積み上げられたステップを駆け上がるのだと思った。不安、歓喜、感情のブレ全てがひとつの思いとなって相棒から放射されるなんて、想像しただけで飛べそうな気がする。
こんがらがった何とも表現出来ない感情はわたしを浮き足出させ、自然と笑顔にさせた。
「…何だかんだ、恩が一番楽しそうだよな」
「にひーっ!持ち味!」
立ち上がれば前に英治がひょろりと立つ。ブイサインと共に答えれば頭を撫でられた。
「さッ!泣いても笑っても、これがリメイカ初のライブだ。最高のライブにすんぞッ!」
黒い幕の前にぞろぞろ集まり、英治の声に耳を預ける。幕の向こうの世界は見たことない未知の世界で、さっきまでスタッフの人が出していた物音はいつの間にかしなくなっていた。
お揃いのバンドTシャツに身を包み、わたしたちは上にうえに腕を掲げる。そしてメンバー全員と固く握った拳をぶつけ合った。何かをする前、終わった後。気持ちが昂ってたまらない時、こうしてそれぞれの拳から痛みを貰う。誰が始めたのか、アドレナリンが大量に出てしまった頭は覚えていなかった。
今日もまた、痛い。
***
「いこう!」
弾けるようにその部屋を後にした。
next.
(壊れた翼/knotlamp)
category: Smiliy
tb: -- cm: 0
「Smiliy:)16」 
2013/04/14 Sun. 20:06 [edit]
オギャー
-- 続きを読む --
わたしの手には十何枚かの紙切れが握られていた。ずっしりと、実際の重さよりも重く感じるのは、この紙が持つ意味の分なんだろう。
「ノルマは一人十五枚。親戚、友達、兎に角一人でも多くの人に見てもらえるよう、集めるのが目的だから、売るっていう意識は持たなくていい」
英治がステージに上がって話していた。
このチケットを用意してくれたのも、このライブハウスを用意してくれたのも、全部何から何まで準備をしているのは、英治だ。彼は自分の言葉通り、わたしたちのプロデュースを開始していた。
***
顔合わせの翌日、とあるスタジオに呼ばれて五人で集まった。そこで、改めて互いの曲披露やら今後の予定、新しいバンド名の発表がされた。二人の『RE:』とわたしたちの『Smiliy:)』で『RE:MAKER』という。音楽の世界を壊して再生する、という意味だ。
様々な話し合いをする中で、英治が最も熱く説明していたのが、『五人でやるバンド』という意識についてだった。
やるからには本気、と言う英治。目標である閃光ライオットまでの間は本気でついていく、とわたしは決めていた。しかし、英治はそれだけではないと言う。
「プロデュースさせてくれ、と言ったけれども、俺一人の力で全ては出来ない。スマイリがいて、俺たちが居て漸くリメイカになる。俺たちはメンバーになった、ということをもう一度自覚して欲しい」
そう言われ、次にわたしたちがしたことはメンバーという意識を持つ為に、互いの呼び方を決めた。男子二人は互いを名前で呼びあっていたので、わたしたちもそうした。女子三人はあだ名がついていたので、男子組がどうしようかと一瞬躊躇ったその時。
「…じゃあ、わたしたちも下の名前にしちゃおうか」
ゴジョーがそう言ったのだった。今思えば、わたしたち三人は何事もゴジョーの一言がキッカケで決まったり、先へ進んでいたりしていたのかもしれない。
わたしは大きく頷いた。
「そだね!えだはりんで、ゴジョーはあかねだね!」
わたしたちのあだ名なんて、気付いたらみんながそう呼んでいただけであって、合わせた訳ではない。改めて決めよう、と動き出すとそれはそれで何だかくすぐったい気持ちになるのは仕方なかったのかもしれない。その時のわたしは執拗に心地よい痒みを覚え、それと同時にじわじわ沸き上がる嬉しさに浸っていた。
「めぐは今までと変わらないね」
「めぐはめぐだしねぇ」
あかねが微笑んで、りんはいつもの通り笑っている。
改めるという行為がこんなにも恥ずかしくて嬉しいものだなんて知らなかった。笑う二人に混じってわたしも笑う。
「さ、決まったところで、次移るぞ」
英治の一声でわたしたちはリメイカのメンバーになり、新しい仲間になった。
***
「最初っからまともに聴いてもらえる訳ないんだから、客が来ないのは当たり前。その代わり、来た人たちには凄いモン聴いたって思わせる演奏をする。あんまり気負いはしなくていいけど、弛みっぱなしでも駄目だからな」
来月末の日曜にやるライブの説明を一通り終えた後、英治が言う。リハーサルに入る前の、空気が張る中で英治はステージにしっかりと立ち、自分の相棒をその肩にさげていた。
「…じゃ、肩慣らしに『Sound』で」
リメイカ初めてのオリジナル曲で、英治が作詞作曲のSound。リードギターは私が担当し、英治が歌う。コーラスはキーボの恭。
英治の姿勢を後ろから見ていたりんがタイミングを見計らってスティックを高く掲げた。
「ワンツー!」
乾いた音の後にバスドラの音が響く。横隔膜を揺らす低く、味のある音が連続してドンドンッと鳴ったあと、キーボのメロディがドラムの単調な音に被さった。
この曲を初めて聴かせてもらった時、ドキドキしたんだ。走る思いに似た音たちにゾクゾク背中がざわついて、鳥肌が止まない。その感情をぶつけるように、最初の一発めは派手に掻き乱す。
小さく息を吸って、三弦を下から上へ、引っ掻くように流した。この音を合図とし、それぞれが響きだして調和を始める。
『We'er eater』
英治の歌声が乗り、曲が歌となった。
next.
(Live my life/knotlamp)
「ノルマは一人十五枚。親戚、友達、兎に角一人でも多くの人に見てもらえるよう、集めるのが目的だから、売るっていう意識は持たなくていい」
英治がステージに上がって話していた。
このチケットを用意してくれたのも、このライブハウスを用意してくれたのも、全部何から何まで準備をしているのは、英治だ。彼は自分の言葉通り、わたしたちのプロデュースを開始していた。
***
顔合わせの翌日、とあるスタジオに呼ばれて五人で集まった。そこで、改めて互いの曲披露やら今後の予定、新しいバンド名の発表がされた。二人の『RE:』とわたしたちの『Smiliy:)』で『RE:MAKER』という。音楽の世界を壊して再生する、という意味だ。
様々な話し合いをする中で、英治が最も熱く説明していたのが、『五人でやるバンド』という意識についてだった。
やるからには本気、と言う英治。目標である閃光ライオットまでの間は本気でついていく、とわたしは決めていた。しかし、英治はそれだけではないと言う。
「プロデュースさせてくれ、と言ったけれども、俺一人の力で全ては出来ない。スマイリがいて、俺たちが居て漸くリメイカになる。俺たちはメンバーになった、ということをもう一度自覚して欲しい」
そう言われ、次にわたしたちがしたことはメンバーという意識を持つ為に、互いの呼び方を決めた。男子二人は互いを名前で呼びあっていたので、わたしたちもそうした。女子三人はあだ名がついていたので、男子組がどうしようかと一瞬躊躇ったその時。
「…じゃあ、わたしたちも下の名前にしちゃおうか」
ゴジョーがそう言ったのだった。今思えば、わたしたち三人は何事もゴジョーの一言がキッカケで決まったり、先へ進んでいたりしていたのかもしれない。
わたしは大きく頷いた。
「そだね!えだはりんで、ゴジョーはあかねだね!」
わたしたちのあだ名なんて、気付いたらみんながそう呼んでいただけであって、合わせた訳ではない。改めて決めよう、と動き出すとそれはそれで何だかくすぐったい気持ちになるのは仕方なかったのかもしれない。その時のわたしは執拗に心地よい痒みを覚え、それと同時にじわじわ沸き上がる嬉しさに浸っていた。
「めぐは今までと変わらないね」
「めぐはめぐだしねぇ」
あかねが微笑んで、りんはいつもの通り笑っている。
改めるという行為がこんなにも恥ずかしくて嬉しいものだなんて知らなかった。笑う二人に混じってわたしも笑う。
「さ、決まったところで、次移るぞ」
英治の一声でわたしたちはリメイカのメンバーになり、新しい仲間になった。
***
「最初っからまともに聴いてもらえる訳ないんだから、客が来ないのは当たり前。その代わり、来た人たちには凄いモン聴いたって思わせる演奏をする。あんまり気負いはしなくていいけど、弛みっぱなしでも駄目だからな」
来月末の日曜にやるライブの説明を一通り終えた後、英治が言う。リハーサルに入る前の、空気が張る中で英治はステージにしっかりと立ち、自分の相棒をその肩にさげていた。
「…じゃ、肩慣らしに『Sound』で」
リメイカ初めてのオリジナル曲で、英治が作詞作曲のSound。リードギターは私が担当し、英治が歌う。コーラスはキーボの恭。
英治の姿勢を後ろから見ていたりんがタイミングを見計らってスティックを高く掲げた。
「ワンツー!」
乾いた音の後にバスドラの音が響く。横隔膜を揺らす低く、味のある音が連続してドンドンッと鳴ったあと、キーボのメロディがドラムの単調な音に被さった。
この曲を初めて聴かせてもらった時、ドキドキしたんだ。走る思いに似た音たちにゾクゾク背中がざわついて、鳥肌が止まない。その感情をぶつけるように、最初の一発めは派手に掻き乱す。
小さく息を吸って、三弦を下から上へ、引っ掻くように流した。この音を合図とし、それぞれが響きだして調和を始める。
『We'er eater』
英治の歌声が乗り、曲が歌となった。
next.
(Live my life/knotlamp)
category: Smiliy
tb: -- cm: 0
「Smiliy:)15」 
2013/03/09 Sat. 23:20 [edit]
折り返し!
-- 続きを読む --
北口は閑散としている。代わりに南口は学生の街らしくファストフードやゲームセンターなどの娯楽施設が多く、賑わっていた。
しかし学生街の南口にも、静かでもしっかりと生活雰囲気が漂う北口にも同じファストフード店がある。この喫茶店を思わせる店内や雰囲気が、従来のファストフードのイメージを一変させ、業界内でも有名であった。主婦や学生、親子連れなど世代を越えて人気があるこのチェーンは南口でも北口でも絶えず賑わう。
その南口店に比べると店内に幾らかの余裕がある北口のファストフード店に五人の高校生がいた。
「改めまして」
店内の奥の四人掛けに無理矢理五人で腰掛ける。奥のソファに女子三人、手前のイスに男子二人の五人組。それぞれの前にはソフトドリンクが並んでいた。
神妙な面持ちで色素が薄い髪質の方が口を開く。
「城崎高校二年、徳永英治」
一方、黒髪の方はフラットな態度で軽く手を上げて先に続いた。
「同じく。難波恭です」
女子は多少の緊張感を持ちながら軽い会釈をそれぞれに対して返す。右端に座っていた茶髪の女子が言った。
「葛西女子高校二年、添田凛。この間少しお話をさせてもらった者です」
突然の隣の行動に慌てた様子で、わたわたと忙しなく口を開く。
「あのっ!えっ、わたし、は!」
口をパクパクさせた黒髪ショートヘアの女子の頬は赤く、今にも腫れ上がりそうな程で、耳までもが赤く、通常の肌色を探す方が難しいくらいであった。その様子を見て、両隣に座る二人は額に手を当てたり、目蓋を閉じて眉間に皺を寄せている。
「あっ、だっ醍醐めぐっみ!です!」
真っ赤な顔は頭を垂れてしまい、今は見れなくなった。しかし、襟足から覗く赤が、未だに彼女を羞恥が捕らえて離さないのが容易にわかる。肩をすくめ、一呼吸置いて、黒髪のポニーテールの女子が言った。
「同じく葛西女子の二年、五条茜です。…早速ですが、お話の詳しい内容が聞きたいですが」
彼女の口から出たのは催促の言葉。この中で誰よりも話に興味があり、未知の出会いに心踊っているのは彼女だった。普段よりも少しだけ口調が強く感じられる。それほどまでにこの日を渇望していたのかもしれない。
英治と名乗った少年は彼女の要望に答えようと口を開くが、小さく開いたそれから音は出なかった。
「…英治」
英治の隣に座る恭という黒髪の少年はその姿を見て膝小僧を小突くが、英治の表情は変わらない。彼のいつもと違った雰囲気に恭自体が戸惑っているようだった。
「バンドのお話を、ということを聞いていました。内容によってはお断りするかもしれません。それを前提に、お話を聞いてもいいですか?」
この会話の主導権は普段見ないような強気を漂わせる茜が握っているようで、もう一度催促を繰り返す。先程の内容に具体的な条件をプラスしながらも、柔らかな物腰で今度は問うた。断る、という言葉に反応し、英治の瞳に光が宿る。真っ直ぐ、茜を見つめた後に良く通る声が言った。
「俺にプロデュースさせてくれ」
テーブルに置かれた握り拳は震え、下げられた頭はつむじが見えるほど深く、この行動すべてに誠意が込められていた。
勢いよく下げられた頭をどうしていいかわからず、恩という少女は一人でオロオロと辺りを見回して、その隣に座る凛と茜は目を見開いて英治の行動をまじまじと見つめている。恭すら英治の突然の行動に驚きを隠せないようだった。
「来年の四月の閃光ライオット。ここにいるメンバーで出たい。後悔はさせない、つまらない思いもさせない。頼む、俺に任せてくれないか」
声はしっかりと三人の耳に届き、徐々に戸惑いの雰囲気は解かれていく。
「俺と恭は『Re:』てバンド組んでる。俺がギタボで、こっちがキーボ。あんたらのバンドと組んで五人組バンドを新たに組みたいと思ってる。あんたたちの音を聴いて確信した、この五人なら最高のバンドが組める。理想なんだ」
塞き切ったように英治の口は止まらなかった。彼の願望が漏れて言葉となって、ここにいる他の四人に伝わる。まだ空中を掴むような、遠すぎる見えない夢。しかし、それを連想させる要素が彼の前には充分過ぎるくらい揃っていた。だから、と英治は続ける。
「俺に、やらせてくれないか」
声色からは真剣さしか伝わって来ない。英治の懇願の表情を見せられ、少女たちは固まった。恭もいつの間にか頭を下げている。
少しして、少女らは互いに見合って、何かを通じ合わせた。頷き合えば、もう答えは決まっているも同然だった。
***
こんなにも真剣にわたしたちの音を聴いて、未来に繋げようと考えてくれている。しかもその顔はまるでお嫁を貰いに来た彼氏のように切羽詰まっていた。こんな状況で、こんなにも嬉しい報告の前で、誰が断れるだろうか。
「スマイリを、よろしくお願いします」
まるで、結婚報告かのようにこそばゆい思いをしながら言ってみた。えだも、ごじょーも笑っている。顔を上げた徳永さんも難波さんも安堵の表情だった。
何が待っているかわからない。ただ、そこに光があることを信じて、わたしはこの五人で進んでいきたいと思うんだ。
next.
(Paper-craft/BIGMAMA)
しかし学生街の南口にも、静かでもしっかりと生活雰囲気が漂う北口にも同じファストフード店がある。この喫茶店を思わせる店内や雰囲気が、従来のファストフードのイメージを一変させ、業界内でも有名であった。主婦や学生、親子連れなど世代を越えて人気があるこのチェーンは南口でも北口でも絶えず賑わう。
その南口店に比べると店内に幾らかの余裕がある北口のファストフード店に五人の高校生がいた。
「改めまして」
店内の奥の四人掛けに無理矢理五人で腰掛ける。奥のソファに女子三人、手前のイスに男子二人の五人組。それぞれの前にはソフトドリンクが並んでいた。
神妙な面持ちで色素が薄い髪質の方が口を開く。
「城崎高校二年、徳永英治」
一方、黒髪の方はフラットな態度で軽く手を上げて先に続いた。
「同じく。難波恭です」
女子は多少の緊張感を持ちながら軽い会釈をそれぞれに対して返す。右端に座っていた茶髪の女子が言った。
「葛西女子高校二年、添田凛。この間少しお話をさせてもらった者です」
突然の隣の行動に慌てた様子で、わたわたと忙しなく口を開く。
「あのっ!えっ、わたし、は!」
口をパクパクさせた黒髪ショートヘアの女子の頬は赤く、今にも腫れ上がりそうな程で、耳までもが赤く、通常の肌色を探す方が難しいくらいであった。その様子を見て、両隣に座る二人は額に手を当てたり、目蓋を閉じて眉間に皺を寄せている。
「あっ、だっ醍醐めぐっみ!です!」
真っ赤な顔は頭を垂れてしまい、今は見れなくなった。しかし、襟足から覗く赤が、未だに彼女を羞恥が捕らえて離さないのが容易にわかる。肩をすくめ、一呼吸置いて、黒髪のポニーテールの女子が言った。
「同じく葛西女子の二年、五条茜です。…早速ですが、お話の詳しい内容が聞きたいですが」
彼女の口から出たのは催促の言葉。この中で誰よりも話に興味があり、未知の出会いに心踊っているのは彼女だった。普段よりも少しだけ口調が強く感じられる。それほどまでにこの日を渇望していたのかもしれない。
英治と名乗った少年は彼女の要望に答えようと口を開くが、小さく開いたそれから音は出なかった。
「…英治」
英治の隣に座る恭という黒髪の少年はその姿を見て膝小僧を小突くが、英治の表情は変わらない。彼のいつもと違った雰囲気に恭自体が戸惑っているようだった。
「バンドのお話を、ということを聞いていました。内容によってはお断りするかもしれません。それを前提に、お話を聞いてもいいですか?」
この会話の主導権は普段見ないような強気を漂わせる茜が握っているようで、もう一度催促を繰り返す。先程の内容に具体的な条件をプラスしながらも、柔らかな物腰で今度は問うた。断る、という言葉に反応し、英治の瞳に光が宿る。真っ直ぐ、茜を見つめた後に良く通る声が言った。
「俺にプロデュースさせてくれ」
テーブルに置かれた握り拳は震え、下げられた頭はつむじが見えるほど深く、この行動すべてに誠意が込められていた。
勢いよく下げられた頭をどうしていいかわからず、恩という少女は一人でオロオロと辺りを見回して、その隣に座る凛と茜は目を見開いて英治の行動をまじまじと見つめている。恭すら英治の突然の行動に驚きを隠せないようだった。
「来年の四月の閃光ライオット。ここにいるメンバーで出たい。後悔はさせない、つまらない思いもさせない。頼む、俺に任せてくれないか」
声はしっかりと三人の耳に届き、徐々に戸惑いの雰囲気は解かれていく。
「俺と恭は『Re:』てバンド組んでる。俺がギタボで、こっちがキーボ。あんたらのバンドと組んで五人組バンドを新たに組みたいと思ってる。あんたたちの音を聴いて確信した、この五人なら最高のバンドが組める。理想なんだ」
塞き切ったように英治の口は止まらなかった。彼の願望が漏れて言葉となって、ここにいる他の四人に伝わる。まだ空中を掴むような、遠すぎる見えない夢。しかし、それを連想させる要素が彼の前には充分過ぎるくらい揃っていた。だから、と英治は続ける。
「俺に、やらせてくれないか」
声色からは真剣さしか伝わって来ない。英治の懇願の表情を見せられ、少女たちは固まった。恭もいつの間にか頭を下げている。
少しして、少女らは互いに見合って、何かを通じ合わせた。頷き合えば、もう答えは決まっているも同然だった。
***
こんなにも真剣にわたしたちの音を聴いて、未来に繋げようと考えてくれている。しかもその顔はまるでお嫁を貰いに来た彼氏のように切羽詰まっていた。こんな状況で、こんなにも嬉しい報告の前で、誰が断れるだろうか。
「スマイリを、よろしくお願いします」
まるで、結婚報告かのようにこそばゆい思いをしながら言ってみた。えだも、ごじょーも笑っている。顔を上げた徳永さんも難波さんも安堵の表情だった。
何が待っているかわからない。ただ、そこに光があることを信じて、わたしはこの五人で進んでいきたいと思うんだ。
next.
(Paper-craft/BIGMAMA)
category: Smiliy
tb: -- cm: 0
「Smiliy:)14」 
2013/02/16 Sat. 01:21 [edit]
じゅうよんかいめですね。
どう繋げていいかわからんかった難産でした(´ω`)しょぼん
どう繋げていいかわからんかった難産でした(´ω`)しょぼん
-- 続きを読む --
「言い方はアレだけど、考えは凄い前向きだよ」
ざわめきの中でゴジョーの声だけが鮮明に、抜き取られる。透明度があり、耳に入ってくる度、少し痛かった。
「えだ、連絡取ってみよう。やるだけやるんでしょう」
晴れやかな笑顔を見せ、にこやかな笑顔はいつものゴジョーで、見慣れた彼女に安堵感が広がり始める。
直面した問題は避けられないもので、いつかは通らなければならない道である。少しのつっかかりを残したまま、わたしたちはこれをクリアした。
***
放課後、例の二人に会えるよう、えだが連絡を取ってくれた。授業が一つ終わる度、緊張と不安が入り交じる複雑な感情がわたしの中をぐるぐるかき混ぜる。負けてはいないが、いつもの有り余る元気のままで居続けることは出来なかった。
「めぐが元気ないと調子狂うね」
「ゴジョーがめぐの代わりにカラ元気だもんな」
「元気はあるけど力が出ないぃ」
「力む必要はないってば」
「それはそれで、めぐらしいけどね」
二人が笑う。わたしが騒がない分、彼女らが張り切ってくれていた。
未知のものに出会うドキドキとワクワクの両方がわたしの胸をいっぱいにする。胸がはち切れそうなのと同時に、心臓が痛かった。何も見えなくて不安だった昨日よりも、すべてが見え始めた今日の方が、悲しくてたまらない。終わりに進むであろう足どりは重かった。
「ここだね」
待ち合わせは駅前のファストフード店。学校側の南口店でなく、あえて反対側の北口店を指定してきた。相手が何を思ってこっちを指定してきたのかは、容易に察しがつく。
えだを先頭に、店内に入り込んだ。にぎわう店内を見回してみると、奥の方の席に二人組の男子高校生が座っている。隣の高校の制服で間違いない。
「えだ、あの人たち?」
確認の為に前で見渡していたえだを引っ張ると軽く二回頷いて笑った。一歩を踏み出したので後に続く。
「遅くなりました」
えだが軽快に声をかけると、キレイな瞳が二つでわたしたちを見据えた。グリーンにグレーがかかった上品な色。一点だけを見つめる眼は、酷くわたしを引き寄せた。
「気にしないで。早く来過ぎたのはこっちの所為だし」
見上げた顔はとても整っていて、長い睫毛と甘栗色の髪の毛が印象的だった。正直、見惚れる。
男性に対し、美しいの言葉を思い浮かべるのは後にも先にもこの、徳永英治ただ一人だ。
「立ち話じゃなんだから、座ってよ」
茶髪の少年の隣に座る黒髪の少年はそう言って微笑む。切れ長の眼は何を思っているのか、簡単には読み取れなさそうであった。後に、この難波恭のポーカーフェイスに悩まされるなんてこの時はまるで、思わなかった。
***
「改めて」
話を始めよう。
少年は不敵に笑い、口を開いた。
next.
(或る街の群青/ASIAN KUNG-FU GENERATION)
ざわめきの中でゴジョーの声だけが鮮明に、抜き取られる。透明度があり、耳に入ってくる度、少し痛かった。
「えだ、連絡取ってみよう。やるだけやるんでしょう」
晴れやかな笑顔を見せ、にこやかな笑顔はいつものゴジョーで、見慣れた彼女に安堵感が広がり始める。
直面した問題は避けられないもので、いつかは通らなければならない道である。少しのつっかかりを残したまま、わたしたちはこれをクリアした。
***
放課後、例の二人に会えるよう、えだが連絡を取ってくれた。授業が一つ終わる度、緊張と不安が入り交じる複雑な感情がわたしの中をぐるぐるかき混ぜる。負けてはいないが、いつもの有り余る元気のままで居続けることは出来なかった。
「めぐが元気ないと調子狂うね」
「ゴジョーがめぐの代わりにカラ元気だもんな」
「元気はあるけど力が出ないぃ」
「力む必要はないってば」
「それはそれで、めぐらしいけどね」
二人が笑う。わたしが騒がない分、彼女らが張り切ってくれていた。
未知のものに出会うドキドキとワクワクの両方がわたしの胸をいっぱいにする。胸がはち切れそうなのと同時に、心臓が痛かった。何も見えなくて不安だった昨日よりも、すべてが見え始めた今日の方が、悲しくてたまらない。終わりに進むであろう足どりは重かった。
「ここだね」
待ち合わせは駅前のファストフード店。学校側の南口店でなく、あえて反対側の北口店を指定してきた。相手が何を思ってこっちを指定してきたのかは、容易に察しがつく。
えだを先頭に、店内に入り込んだ。にぎわう店内を見回してみると、奥の方の席に二人組の男子高校生が座っている。隣の高校の制服で間違いない。
「えだ、あの人たち?」
確認の為に前で見渡していたえだを引っ張ると軽く二回頷いて笑った。一歩を踏み出したので後に続く。
「遅くなりました」
えだが軽快に声をかけると、キレイな瞳が二つでわたしたちを見据えた。グリーンにグレーがかかった上品な色。一点だけを見つめる眼は、酷くわたしを引き寄せた。
「気にしないで。早く来過ぎたのはこっちの所為だし」
見上げた顔はとても整っていて、長い睫毛と甘栗色の髪の毛が印象的だった。正直、見惚れる。
男性に対し、美しいの言葉を思い浮かべるのは後にも先にもこの、徳永英治ただ一人だ。
「立ち話じゃなんだから、座ってよ」
茶髪の少年の隣に座る黒髪の少年はそう言って微笑む。切れ長の眼は何を思っているのか、簡単には読み取れなさそうであった。後に、この難波恭のポーカーフェイスに悩まされるなんてこの時はまるで、思わなかった。
***
「改めて」
話を始めよう。
少年は不敵に笑い、口を開いた。
next.
(或る街の群青/ASIAN KUNG-FU GENERATION)
category: Smiliy
tb: -- cm: 0
「Smiliy:)13」 
2013/02/02 Sat. 23:20 [edit]
じゅうさんこめ。
-- 続きを読む --
答えを出すのにあと少し時間をくれ、とゴジョーは言い、あの場はそれで解散となった。
帰宅し、定位置に相棒を置くと乱暴にベッドへ雪崩れ込む。グルグル駆け巡る思考を止められずに添田家から歩いてきた。勢いでああはいったものの、やはり不安は拭い去れない。
考えてみれば高校二年の秋、文化祭も終わり、そろそろ真剣に進路を考えなくてはならない時期だった。
「わかんないよー!」
ギターを始める前。ハイスタに出会う前は、普通に大学に出てどこかに就職し、その内どうにかなるだろう、という曖昧な未来像であった。これまでも流れに身を任せてきて、今に至る。これからもそうであると、ぼんやり思っていたのだろう。
けれど、これからは違う。違ってしまう。
ぼやけていた視界がシャットダウンする。暗い未来しか見えない。ずっと胸に在った自信はどこかへ行ってしまい、残ったのは漠然とした不安だけ。今のままバンドをやれば、そんな未来が簡単に想像出来てしまう。それくらいはわたしにだってわかる。
けれど、ギターを続けたい。今までしたことないような執着をこのギターに抱いてしまっている。音楽をやりたいとか、アーティストになりたいとかでなく、ただ、ギターを弾き続けてどこまで行けるか見てみたい。その欲だけで今は動いている。
決まってはいるが、踏み出せない。十代で出来ることなんて少ないけど、十代でしか出来ないことは沢山ある。後悔のない人生を望むのはヒトとして当たり前であっていい筈だろう。これが、後悔しない選択であるか、未だに確信が持てないでいる。
「…………吐きそう」
ぐるぐると使いもしない頭を急速に回転させればショートするのは必然で、気付けば布団に突っ伏したまま深い眠りについていた。
***
翌日、普段通りの登校をすると既にゴジョーは教室に居て笑顔を見せる。けれど、私の情けない顔は晴れなくてゴジョーも困っていた。
「おはよ」
「おはよぉ」
たいして重くない薄いカバンを机に置き、イスに着くとえだが丁度顔を見せる。二人してそれを迎え、えだの着席と共にゴジョーが話し始めた。
「よぉく考えてみたの。私だってえだとめぐと三人で楽しいことしたい。それが今のバンドという形だろうし、これからも続けられると思うと嬉しい。ただ、何時までもバンドばかりはしてられないだろうな、ていうのはあるの」
ゴジョーの言葉は昨日考えていたままの私で、やはり辿り着くものは同じで変えられない時間なんだと嫌でも自覚させられる。わたしもえだも黙ってゴジョーの話しに耳を傾けた。
「あの話しを聞くのはいい。けど、代わりに期限を設けたいて思った。一応の期限。大学だって行きたいから、その準備期間に入るまで。それまで、めぐのようにえだが目指すように、私もスマイリでやれるまでやりたい。です」
教室は相変わらず朝のガヤガヤを続けていた。わたしたちの存在は何時もガヤの外側でも内側でもない。けれど、今日は外側だった。教室の隅でわたしとゴジョーの前後に並んだ机に、三人で取り残される。
晴れやかなゴジョーの表情に、曇り気味のえだ。わたしはまだ、切り出せないでいた。
***
卒業と共に終わりがくる身分。新たな身分を得る為には、それ相応の時間が必要。終わりが在るのは誰しもがわかっているが、その終わりをわざわざ明確なものにする人はいない。
わたしたちは今、高校生という身分の終わりを見る。
(Insomnia/the HIATUS)
next.
帰宅し、定位置に相棒を置くと乱暴にベッドへ雪崩れ込む。グルグル駆け巡る思考を止められずに添田家から歩いてきた。勢いでああはいったものの、やはり不安は拭い去れない。
考えてみれば高校二年の秋、文化祭も終わり、そろそろ真剣に進路を考えなくてはならない時期だった。
「わかんないよー!」
ギターを始める前。ハイスタに出会う前は、普通に大学に出てどこかに就職し、その内どうにかなるだろう、という曖昧な未来像であった。これまでも流れに身を任せてきて、今に至る。これからもそうであると、ぼんやり思っていたのだろう。
けれど、これからは違う。違ってしまう。
ぼやけていた視界がシャットダウンする。暗い未来しか見えない。ずっと胸に在った自信はどこかへ行ってしまい、残ったのは漠然とした不安だけ。今のままバンドをやれば、そんな未来が簡単に想像出来てしまう。それくらいはわたしにだってわかる。
けれど、ギターを続けたい。今までしたことないような執着をこのギターに抱いてしまっている。音楽をやりたいとか、アーティストになりたいとかでなく、ただ、ギターを弾き続けてどこまで行けるか見てみたい。その欲だけで今は動いている。
決まってはいるが、踏み出せない。十代で出来ることなんて少ないけど、十代でしか出来ないことは沢山ある。後悔のない人生を望むのはヒトとして当たり前であっていい筈だろう。これが、後悔しない選択であるか、未だに確信が持てないでいる。
「…………吐きそう」
ぐるぐると使いもしない頭を急速に回転させればショートするのは必然で、気付けば布団に突っ伏したまま深い眠りについていた。
***
翌日、普段通りの登校をすると既にゴジョーは教室に居て笑顔を見せる。けれど、私の情けない顔は晴れなくてゴジョーも困っていた。
「おはよ」
「おはよぉ」
たいして重くない薄いカバンを机に置き、イスに着くとえだが丁度顔を見せる。二人してそれを迎え、えだの着席と共にゴジョーが話し始めた。
「よぉく考えてみたの。私だってえだとめぐと三人で楽しいことしたい。それが今のバンドという形だろうし、これからも続けられると思うと嬉しい。ただ、何時までもバンドばかりはしてられないだろうな、ていうのはあるの」
ゴジョーの言葉は昨日考えていたままの私で、やはり辿り着くものは同じで変えられない時間なんだと嫌でも自覚させられる。わたしもえだも黙ってゴジョーの話しに耳を傾けた。
「あの話しを聞くのはいい。けど、代わりに期限を設けたいて思った。一応の期限。大学だって行きたいから、その準備期間に入るまで。それまで、めぐのようにえだが目指すように、私もスマイリでやれるまでやりたい。です」
教室は相変わらず朝のガヤガヤを続けていた。わたしたちの存在は何時もガヤの外側でも内側でもない。けれど、今日は外側だった。教室の隅でわたしとゴジョーの前後に並んだ机に、三人で取り残される。
晴れやかなゴジョーの表情に、曇り気味のえだ。わたしはまだ、切り出せないでいた。
***
卒業と共に終わりがくる身分。新たな身分を得る為には、それ相応の時間が必要。終わりが在るのは誰しもがわかっているが、その終わりをわざわざ明確なものにする人はいない。
わたしたちは今、高校生という身分の終わりを見る。
(Insomnia/the HIATUS)
next.
category: Smiliy
tb: -- cm: 0
「Smiliy:)12」 
2013/01/10 Thu. 10:17 [edit]
迎春!
新年一発目でございます!今年もどうぞよろしくおねがいします!:)
新年一発目でございます!今年もどうぞよろしくおねがいします!:)
-- 続きを読む --
「え?」
「ごっ…ごうこうん…」
「めぐ、それはなんか違う。ていうか合コンじゃないから。ただ、会って直接話がしたいって言われたの」
文化祭翌日は片付け予備日という名の振替休日となっていて、学校はない。わたしとゴジョーは通い慣れたえだの家に集まり、反省会を開いていた。そこでえだの口から聞かされた衝撃の告白。目が点になった。
どうやら昨日の公演後、帰路の途中でとある男性二人に捕まり、バンドとして話がしたいと持ちかけられたのだという。何故、えだがスマイリの代表として捕まったのかは定かでないし、わたしたちの通学路を知っていた理由もよくわかっていない。
とにもかくにも、怪しい話でしかないことは確かだった。それなのに、えだはその話を受けたいと言う。
えだはこう続けた。
「隣の高校、男子校じゃん?そこの人らなんだって。一応、身分とか確かめさせてもらったから、信じてはいいだろうね」
「でっでも!何者…ッ!」
「めぐの気持ちはわかる。えだ、そんなすぐに信用していいの?」
「いや…実は小耳に挟んだ情報でしかないんだけど、二人組の『RE:』ていうバンドが凄い、て話を聞いたんだ。ウチの学校にそんな人らが居ればすぐわかるけど、隣の学校なら今まで見掛けなかったのも納得がいくし」
えだはそこで言葉を切る。どこか楽しそうな表情に思わず見いってしまった。
「…ま、実力ある人らに認められたのかも、て少し舞い上がってるのかも」
ごめんね、と照れ臭そうにえだは笑う。
そんなことない、わたしより知識も実力もあるえだがそう言うならば、きっといい方向に向いている。根拠のない自信は、えだの表情から影響されたものである。私の自信がついたからといって何かが変わるわけではない、けれどもえだの背中を押すことは出来るだろう。
意を決して身を乗り出して問うた。
「で!えだはどうしたいの?」
「どうって…受けたいんだけど、どうしたらいいかなっていうのを二人に相談してるんでしょうっ」
「…その話を受けるとして、どうするの?その後、は」
ゴジョーが発する声にえだの動きが止まる。こうしてはっきりとした意見を言うゴジョーは見たことがない。普段、わたしたちの話を聞いて笑い、たまにつっこんで、自分の意見を押し通すなんてことはしない。正しいと思うことは口にするけれど、誰かを責めたりするような言葉は発したことはない。わたしはそう記憶している。
そんなゴジョーが、えだの真意を聞き出そうとしているのだ。えだがどう感じ、わたしたちにどうして欲しいのか、それを問うてる。
直感で真っ直ぐ走るわたしと違って、ゴジョーは考え、楽しみを共有しようと思っているのかもしれない。
少し、今までと空気が違うのが私でも読み取れた。
「…きっと、いい話だと思う。そのいいっていうのは、二人にとって絶対良いものっていう自信はないけど、スマイリというバンドが成長出来るきっかけだろうと思う。…やりだしたんなら、やれるとこまでやりたい。わたしは、そう思ってる」
えだは俯きながらもしっかりした声で伝える。その言葉を真正面から受けて、ゴジョーと私は静かに頷いた。
その頷きから見て、不安がない訳ではないだろう。私もそうだ、何がよくて何が悪いかなんてまるで見えてない今から言い切ってしまっていいのか。けれど、前に進み始めたのだ。少しずつ、確かな前進を感じている。
「だから、二人が良かったらこの話受けてみようと思う」
顔を上げ、真っ直ぐに見つめてくる瞳がきっかけだった。
「わたしはっ!」
勢いで立ち上がり、二人の注目を集める。まだえだが話してる最中だ。えだの話に対する意見でなく、己の意見を発する。
「スマイリやってて楽しいっ……、好きなロックをやるだけじゃなくて三人でロックやれる今が楽しい。それが…、変わるのは…コワイ……。怖い、けど、もっと楽しくなるなら…いいなって……」
曖昧で拙くて、ごちゃごちゃした感情のままそれを言葉にしようともがいた。わたしたちのグループはこうして意見をぶつけ合うことなんてあまりなかった。ないからこそ円満な、角のない集まりであった。逆に、互いに牽制し合って今のかたちになっているような気もする。
今こそ本音をぶつけ合う、その時な気がした。
「先の見えない活動だし、それだからそこ、挫折するまで走り抜けてみたいって思っちゃだめかな」
ぐらぐらしていた意志がようやく固まる。ぶつかるなら今だ、起点はここだ。奮い立たせるように言い聞かす。
もう、視線が揺らぐことはない。
next.
(遠くへ/knotlamp)
「ごっ…ごうこうん…」
「めぐ、それはなんか違う。ていうか合コンじゃないから。ただ、会って直接話がしたいって言われたの」
文化祭翌日は片付け予備日という名の振替休日となっていて、学校はない。わたしとゴジョーは通い慣れたえだの家に集まり、反省会を開いていた。そこでえだの口から聞かされた衝撃の告白。目が点になった。
どうやら昨日の公演後、帰路の途中でとある男性二人に捕まり、バンドとして話がしたいと持ちかけられたのだという。何故、えだがスマイリの代表として捕まったのかは定かでないし、わたしたちの通学路を知っていた理由もよくわかっていない。
とにもかくにも、怪しい話でしかないことは確かだった。それなのに、えだはその話を受けたいと言う。
えだはこう続けた。
「隣の高校、男子校じゃん?そこの人らなんだって。一応、身分とか確かめさせてもらったから、信じてはいいだろうね」
「でっでも!何者…ッ!」
「めぐの気持ちはわかる。えだ、そんなすぐに信用していいの?」
「いや…実は小耳に挟んだ情報でしかないんだけど、二人組の『RE:』ていうバンドが凄い、て話を聞いたんだ。ウチの学校にそんな人らが居ればすぐわかるけど、隣の学校なら今まで見掛けなかったのも納得がいくし」
えだはそこで言葉を切る。どこか楽しそうな表情に思わず見いってしまった。
「…ま、実力ある人らに認められたのかも、て少し舞い上がってるのかも」
ごめんね、と照れ臭そうにえだは笑う。
そんなことない、わたしより知識も実力もあるえだがそう言うならば、きっといい方向に向いている。根拠のない自信は、えだの表情から影響されたものである。私の自信がついたからといって何かが変わるわけではない、けれどもえだの背中を押すことは出来るだろう。
意を決して身を乗り出して問うた。
「で!えだはどうしたいの?」
「どうって…受けたいんだけど、どうしたらいいかなっていうのを二人に相談してるんでしょうっ」
「…その話を受けるとして、どうするの?その後、は」
ゴジョーが発する声にえだの動きが止まる。こうしてはっきりとした意見を言うゴジョーは見たことがない。普段、わたしたちの話を聞いて笑い、たまにつっこんで、自分の意見を押し通すなんてことはしない。正しいと思うことは口にするけれど、誰かを責めたりするような言葉は発したことはない。わたしはそう記憶している。
そんなゴジョーが、えだの真意を聞き出そうとしているのだ。えだがどう感じ、わたしたちにどうして欲しいのか、それを問うてる。
直感で真っ直ぐ走るわたしと違って、ゴジョーは考え、楽しみを共有しようと思っているのかもしれない。
少し、今までと空気が違うのが私でも読み取れた。
「…きっと、いい話だと思う。そのいいっていうのは、二人にとって絶対良いものっていう自信はないけど、スマイリというバンドが成長出来るきっかけだろうと思う。…やりだしたんなら、やれるとこまでやりたい。わたしは、そう思ってる」
えだは俯きながらもしっかりした声で伝える。その言葉を真正面から受けて、ゴジョーと私は静かに頷いた。
その頷きから見て、不安がない訳ではないだろう。私もそうだ、何がよくて何が悪いかなんてまるで見えてない今から言い切ってしまっていいのか。けれど、前に進み始めたのだ。少しずつ、確かな前進を感じている。
「だから、二人が良かったらこの話受けてみようと思う」
顔を上げ、真っ直ぐに見つめてくる瞳がきっかけだった。
「わたしはっ!」
勢いで立ち上がり、二人の注目を集める。まだえだが話してる最中だ。えだの話に対する意見でなく、己の意見を発する。
「スマイリやってて楽しいっ……、好きなロックをやるだけじゃなくて三人でロックやれる今が楽しい。それが…、変わるのは…コワイ……。怖い、けど、もっと楽しくなるなら…いいなって……」
曖昧で拙くて、ごちゃごちゃした感情のままそれを言葉にしようともがいた。わたしたちのグループはこうして意見をぶつけ合うことなんてあまりなかった。ないからこそ円満な、角のない集まりであった。逆に、互いに牽制し合って今のかたちになっているような気もする。
今こそ本音をぶつけ合う、その時な気がした。
「先の見えない活動だし、それだからそこ、挫折するまで走り抜けてみたいって思っちゃだめかな」
ぐらぐらしていた意志がようやく固まる。ぶつかるなら今だ、起点はここだ。奮い立たせるように言い聞かす。
もう、視線が揺らぐことはない。
next.
(遠くへ/knotlamp)
category: Smiliy
tb: -- cm: 0
「Smiliy:)11」 
2012/11/08 Thu. 19:41 [edit]
お久しぶりの!漫画のターン!笑
category: Smiliy
tb: -- cm: 0
「Smiliy:)10」 
2012/11/08 Thu. 15:52 [edit]
二桁!大台!笑
頑張ってます:)
頑張ってます:)
-- 続きを読む --
タンタンタタンッ
えだのドラムが鳴った。
文化祭前日の今日、本番と同じステージでリハーサル。順番待ちを経て、漸く私たちに回ってきた。
学生みんな兼用とされている軽音部のドラムが既に設置してある。先程の音はえだによるもので、試すように何度か適当なリズムを刻んでいた。ギター、ベースをそれぞれアンプに差し込んで音を確かめる。順調な滑り出しだった。
「…いい?」
相棒の音は最高で、申し分がない。すぐに始められる、と確信したわたしは顔を上げてみんなの顔を見渡した。目が合う。二つの視線が既にわたしに向けられいた。返事の代わりに大きく頷くと、えだが腕を上げる。
「3、2、1!」
えだの声に合わせてスティックの乾いた音が響いた。
ストロークを数回。それに合わせて体が動く。何度も練習し、身に付いたリズムに音が本番と同じステージに響いた。
始めはknotlamp「Last Train」。駆け巡る様なリフが続き、気持ちがいい。マイクに向かう。口を開いて、歌い慣れたメロディを発した。
英語の歌詞なんて歌えないよ、そうやりもしないで口にしたのはつい3ヶ月前。今ではもう、苦とは思わない程体に馴染んでいた。
えだのドラムが基盤を作り、ゴジョーのベースが支えてくれる。最高に気持ちのいい瞬間だ。自然と体が揺れ、頭が揺れる。弾いていることに酔ってくる。
相棒を無我夢中で弾き鳴らした。
「ッだぁ!」
最後のワンフレーズをピックで引っ掻け、余韻に浸りながら湧き出た声をそのまま放出する。弾きっぱなしになっていた相棒もビィインと叫んでいるように思えた。
出だしは好調だと確信する。アイコンタクトを送れば、二人の自信たっぷりな頷きが返ってきた。練習してきた以上の手応えに思わず頬の筋肉が緩み、ふつふつと喜びがわきだす。最高の、一瞬だ。
次は三人で手分けして作った一曲。初めてのSmiliyの曲。
練習だとか、リハーサルだとか、そんなものすっ飛ばして、最高に気持ちのいいものを今、鳴らしたいと思う。
「続けていっちゃおう!」
合わせて演奏するなんて今まで何度もやってきた。えだの家で何度も何度も。けど、その中でも群を抜いていい出来だ。
楽器を初めて月日がそんなに経ってない私でもわかる。本物の舞台でやる凄さ、勢い、達成感。それらが体を駆け巡って充満する。楽しかった、楽しすぎるぐらいだ。
早く早くと頭が言う。それに伴って体が動く。
次の曲のAメロを弾き始めていた。リズム隊も遅れることなくついてくる。
緩いアルペジオから入ってワンフレーズ。えだの腕が振り上がる。
「1、2…、3、2、1!!」
一気に畳み掛けるようにそれぞれが鳴った。
言い表せない感情を表現しているかのようで、心が震え、ぞわぞわと鳥肌が止まらない。
明日はいい音になる。明後日はもっといい音になる。
何処からともなく沸く自信に心が踊った。
next.
(Last Train/knotlamp)
えだのドラムが鳴った。
文化祭前日の今日、本番と同じステージでリハーサル。順番待ちを経て、漸く私たちに回ってきた。
学生みんな兼用とされている軽音部のドラムが既に設置してある。先程の音はえだによるもので、試すように何度か適当なリズムを刻んでいた。ギター、ベースをそれぞれアンプに差し込んで音を確かめる。順調な滑り出しだった。
「…いい?」
相棒の音は最高で、申し分がない。すぐに始められる、と確信したわたしは顔を上げてみんなの顔を見渡した。目が合う。二つの視線が既にわたしに向けられいた。返事の代わりに大きく頷くと、えだが腕を上げる。
「3、2、1!」
えだの声に合わせてスティックの乾いた音が響いた。
ストロークを数回。それに合わせて体が動く。何度も練習し、身に付いたリズムに音が本番と同じステージに響いた。
始めはknotlamp「Last Train」。駆け巡る様なリフが続き、気持ちがいい。マイクに向かう。口を開いて、歌い慣れたメロディを発した。
英語の歌詞なんて歌えないよ、そうやりもしないで口にしたのはつい3ヶ月前。今ではもう、苦とは思わない程体に馴染んでいた。
えだのドラムが基盤を作り、ゴジョーのベースが支えてくれる。最高に気持ちのいい瞬間だ。自然と体が揺れ、頭が揺れる。弾いていることに酔ってくる。
相棒を無我夢中で弾き鳴らした。
「ッだぁ!」
最後のワンフレーズをピックで引っ掻け、余韻に浸りながら湧き出た声をそのまま放出する。弾きっぱなしになっていた相棒もビィインと叫んでいるように思えた。
出だしは好調だと確信する。アイコンタクトを送れば、二人の自信たっぷりな頷きが返ってきた。練習してきた以上の手応えに思わず頬の筋肉が緩み、ふつふつと喜びがわきだす。最高の、一瞬だ。
次は三人で手分けして作った一曲。初めてのSmiliyの曲。
練習だとか、リハーサルだとか、そんなものすっ飛ばして、最高に気持ちのいいものを今、鳴らしたいと思う。
「続けていっちゃおう!」
合わせて演奏するなんて今まで何度もやってきた。えだの家で何度も何度も。けど、その中でも群を抜いていい出来だ。
楽器を初めて月日がそんなに経ってない私でもわかる。本物の舞台でやる凄さ、勢い、達成感。それらが体を駆け巡って充満する。楽しかった、楽しすぎるぐらいだ。
早く早くと頭が言う。それに伴って体が動く。
次の曲のAメロを弾き始めていた。リズム隊も遅れることなくついてくる。
緩いアルペジオから入ってワンフレーズ。えだの腕が振り上がる。
「1、2…、3、2、1!!」
一気に畳み掛けるようにそれぞれが鳴った。
言い表せない感情を表現しているかのようで、心が震え、ぞわぞわと鳥肌が止まらない。
明日はいい音になる。明後日はもっといい音になる。
何処からともなく沸く自信に心が踊った。
next.
(Last Train/knotlamp)
category: Smiliy
tb: -- cm: 0
「Smiliy:)09」 
2012/10/02 Tue. 19:24 [edit]
いよいよ二桁…。その前に!
-- 続きを読む --
夏休みが残り少なくなって、振り返れば私たちの高校二年目の夏は殆んどバイトとバンドで過ぎていった。
何度目かの打ち合わせの為、えだの家に集まった時のこと。練習を重ねてきた曲が終わった瞬間、えだが言う。
「そろそろ、自分らの曲でも作ってみよっか」
課題であったエルレガーデンのスターフィッシュにハイスタンダードのステイゴールド、ノットランプのラストトレインを今までやってきた。実際にステージで演奏するのはハイスタとノットの二曲。そしてそこに三人で作った一曲をプラスし、合計三曲を演奏する予定でいた。コピーバンドだけでは終わらせない、それがえだのこだわりでありスマイリを結成する条件だった。
その日はそのまま各自考えてくること、と言われ解散した。
歌詞と歌とどちらを考えてきてもいい、と言われ赤いあの子を背負いながらぼんやりとオリジナル曲のことを考える。作曲とか作詞とかってどうやって産み出すものなのか、憧れていたバンドの人たちはどうやって乗り越えてきたのかごちゃごちゃと考えてみる。輪郭のはっきりしない対象物に対してどう接していいのかわからないまま、無事帰宅してしまった。
帰ってから、さっぱりとした体ともやが晴れない頭とでさっきのことを考えてみた。しかし、まだ明確な答えが出ない、手応えがない。うーむ、と頭を抱えるように枕にだれる。
「インスピレーション…」
直感などといったものには無縁ではないと、少しは自覚がある。しかし、それを意図的に扱えるかと言われればそうでもない。どっちがいいかなー、と悩むときにむむむっと思い付く時はあるが、それまで。今回は役立ちそうにないのが残念だった。
「けど、頭脳戦なんてもっとムリ」
ブンブン頭を振って、出来るだけいつもの自分というものを保つよう心掛ける。
何がよくて、何がわるいのか今の私にはちんぷんかんぷんだけれど、大好きなアーティストたちと同じことをするのだと思うと少し胸がときめいた。
「うしっ」
気合いを拳に溜め込み、それを握ることによってやる気を奮い立たせる。緊張しがちな性格をコントロールする為に、中学の頃編み出した技だった。
大好きな相棒を抱え込んで、適当なストロークを始める。上下に振っていた腕は自由気ままに音を鳴らした。そこに鼻歌でメロディを乗せてみる。すると、何だか曲になっているような気がしてきた。
やるしかない、やるっきゃない。私の頭はそれでいっぱいながらも、どこか大変な今を楽しんでいるような気がした。
next.
(Silver Birch/the HIATUS)
夏休みが残り少なくなって、振り返れば私たちの高校二年目の夏は殆んどバイトとバンドで過ぎていった。
何度目かの打ち合わせの為、えだの家に集まった時のこと。練習を重ねてきた曲が終わった瞬間、えだが言う。
「そろそろ、自分らの曲でも作ってみよっか」
課題であったエルレガーデンのスターフィッシュにハイスタンダードのステイゴールド、ノットランプのラストトレインを今までやってきた。実際にステージで演奏するのはハイスタとノットの二曲。そしてそこに三人で作った一曲をプラスし、合計三曲を演奏する予定でいた。コピーバンドだけでは終わらせない、それがえだのこだわりでありスマイリを結成する条件だった。
その日はそのまま各自考えてくること、と言われ解散した。
歌詞と歌とどちらを考えてきてもいい、と言われ赤いあの子を背負いながらぼんやりとオリジナル曲のことを考える。作曲とか作詞とかってどうやって産み出すものなのか、憧れていたバンドの人たちはどうやって乗り越えてきたのかごちゃごちゃと考えてみる。輪郭のはっきりしない対象物に対してどう接していいのかわからないまま、無事帰宅してしまった。
帰ってから、さっぱりとした体ともやが晴れない頭とでさっきのことを考えてみた。しかし、まだ明確な答えが出ない、手応えがない。うーむ、と頭を抱えるように枕にだれる。
「インスピレーション…」
直感などといったものには無縁ではないと、少しは自覚がある。しかし、それを意図的に扱えるかと言われればそうでもない。どっちがいいかなー、と悩むときにむむむっと思い付く時はあるが、それまで。今回は役立ちそうにないのが残念だった。
「けど、頭脳戦なんてもっとムリ」
ブンブン頭を振って、出来るだけいつもの自分というものを保つよう心掛ける。
何がよくて、何がわるいのか今の私にはちんぷんかんぷんだけれど、大好きなアーティストたちと同じことをするのだと思うと少し胸がときめいた。
「うしっ」
気合いを拳に溜め込み、それを握ることによってやる気を奮い立たせる。緊張しがちな性格をコントロールする為に、中学の頃編み出した技だった。
大好きな相棒を抱え込んで、適当なストロークを始める。上下に振っていた腕は自由気ままに音を鳴らした。そこに鼻歌でメロディを乗せてみる。すると、何だか曲になっているような気がしてきた。
やるしかない、やるっきゃない。私の頭はそれでいっぱいながらも、どこか大変な今を楽しんでいるような気がした。
next.
(Silver Birch/the HIATUS)
category: Smiliy
tb: -- cm: 0