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創作文芸ブログ

  


照り返す日差しは、天然の光が人工物にぶつかり、強烈な熱を含む。

現代の日本の暑さは人工物から発せられるエネルギーの集合体であると前々から思っていた。

しかし、湿気を含む暑さが特徴の日本の夏は古来から暑かったのだろう。

その中で、少しでも涼しくなろうという工夫が幾つも生まれた。

怪談 肝試し など

からだの内側から冷やすという発想である。

現在でもその人気は高く、この夏もそうであった。

うんざりするほどの心霊番組に怪談話。

夏になると暑さとそれらが鬱陶しく、全体的にかったるかった。

どうしたものか。



眼鏡(がんきょう)参
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点る火は何処へゆく

燈る灯はあの子のもとへ


揺れ動く炎は強い意志の表れ


眼鏡(がんきょう)弐




「暇だねぇ」

「暇なら蔵の掃除でもしたら?」

「そういう暇じゃないんだよ、わかんないかねえ」


ふよふよ辺りを漂いながら暇潰し探しをしている様子のお菊。我が家で彼女の身体が浮いてることは誰もが承知のこと。というより、我が家は代々見えやすい体質なのだとか。詳しい家系図や、出来事などが残っている訳ではないのでハッキリしたことは解らないが、おばあちゃんを含め、家族みんな見える体質なのは確かだった。
クルクルと縦に回るのが面白いのかあたしの周りを何周かするとクルクルと縦に回る。まるで鉄棒で遊ぶ子供みたいだった。
ふとカタカタとお菊の口が動く。


「ま、お子ちゃまに大人の暇が解る訳もないか」

「……はいはい」


お子ちゃまも何も、お菊は代々我が家系と随分親しいらしく、もうここ何百年はこの家屋の古い蔵に住んでいるそうだ。あたしからすればお菊はおばあちゃんよりおばあちゃんなのだから、彼女の生きてる年月からしたらあたしの人生など一瞬のようなものなのだろう。


「…あ。あー…」

「今時面倒臭いのが居るもんだねぇ」


目の前を青年が横切る。ふよふよと漂う姿から、自分がこの世の存在で無くなったのを自覚していないのだろう。厄介ごとには間違いない。何で見てしまったのだろうか。いや、今からでも見ない振りは出来る筈だが…だけど。


「暇なんだから仕方無い…か」

「面倒臭いこと考えるねぇ、あんたも」

「お互い様だと思うよ」


結局は動き出す事になる。お菊も何だかんだ言って協力してくれるのだがら優しいのだろう。いや、暇なだけか。
兎にも角にも、青年の追跡から今日一日が始まる事になった。






「灯、闇雲に探したって浮遊してる奴は溢れ返る程居るんだよ」

カタカタ

「わかってるけど…こっちな筈」


よく解らない、根拠のない勘がこちらだと呼ぶ。招き入れる様な感覚に少々不安を抱くが、何の手掛かりがない今はこうした勘に頼るしかない。

家を飛び出したは良いものの、青年の姿はなく何処に行ったのか見当もつかないこの状況にお菊は若干苛つき始めた。本体は置いてきているが何となく表情が読み取れる。眉間に皺を寄せ、目で退屈を訴える時の表情。


「もう少しだよ、きっと」

「そのきっとってのが気に入らないねえ!」

カタカタッ

「苛々しない」


お菊がそっぽを向く。何だかんだ言ってお菊は優しく、何時だって助けてくれる。ただ気まぐれだから調子を見つつ行動をしないとこちらが痛い目を見る事になるだろうと予測している。そんな日がこない事が一番なのだが。
ふと曲がり角を右に曲がると赤のチェック柄の背中を捉える。見間違いじゃない、あの青年だった。


「すみません」

「…あんた、俺が見えるのか?」

「一応、ね」


見たくて見てる訳ではないのだが。
事情を訊けば生前の記憶がまるで無いのだと言う。これはと、思わずお菊と顔を合わせる。一番厄介な相手に遭遇し、面倒な事に自ら踏み込んだらしい。お節介などしようと思った良心が憎たらしく思えた。
除霊の力があれば楽に事が済んだのだろうが、生憎ウチの家系は見える力だけで、この人には何も出来ない。やれることはこうして話を聞くことだけ。


「俺はこれからどうすれば…」


見掛けによらず女々しい声を出す青年に思わず眉間の皺が深まる。面倒臭い事柄プラス、この性格。この世から除外された存在なのだと説明したのだから成仏すればいいのに、それを実行しない辺り余計に面倒臭い。大抵の浮遊霊はこの時点で成仏してくれるのだが、今回はそういかないらしい。思わずため息が出る。


「やっぱあたしゃ降りるよ」

カタカタ

「……言うと思った」

「当たり前だろうっ?こんな浮遊霊の中の浮遊霊なんて付き合うなんて御免だよッ!」

カタカタカタカタッ

「あと少しだけ…ねぇ、ダメ?」

「いい加減にしなッ灯!」

カタカタッ


お菊の声が辺りに響く。流石にお菊でももう限界らしく踵を返そうとしていた。お菊に怒鳴られるとこなんかいつもだ。だけど今日のはいつもと違う。仕方無いので黙って行かせるつもりだった。


「あかり…?お前、結城(ゆうき)灯か!?」



突然の衝撃。少し遠くに居た筈の男性が肩を掴み、間近で凝視される。思わず目を見開いて青年の顔をしっかりと見た。すると懐かしい記憶が青年の手を通じて流れ込んでくる。その感覚にキツく瞼を閉じてしまった。
いけない、飲み込まれる。わかってはいても、もう遅かった。


「結城……、オレだ。なあ…!」

「静かにしな。今お前の記憶を辿ってる。その内導き始めるさ」

カタカタ


生温かい感覚はいつになっても慣れない。経験自体少ないのだから当然だろうが若干の吐き気を催すのは頂けない。
怠惰感とともにゆっくりと瞼を押し上げる。


「…佐々木、くんね。思い出したよ。ついでに君の死亡時も…ね」

「結城…!あ、そうだ。オレ…、オレ!お前に言わなきゃなんねぇことがっ」

「全部見てきた。大丈夫、安心して。忘れるくらいの些細な事だったから。もう…関係ない」


悲しみと罪悪感が感じらるる彼の視線がとてもうざったらしい。今更謝罪されても困る。
短い息を漏らせばだいぶ気分が良くなった。お菊の視線に少し口角を上げて応える。
再び青年を見れば唇を噛み締め、なんとも情けない表情を浮かべているので答えてやる。


「さあ…、お逝きなさい。何もかも背負って、お逝きなさい。あなたの…強い決心が鈍らない内に。悲しみも全て泡の様に消えゆくでしょう」


青年の四肢が光出す。複雑な笑みを零しながら青年は成仏へ歩みを進めた。これで、気持ちも背負ったまま逝けるのだろう。少し晴れた顔をしていた。
完全に消える瞬間、彼はありがとうとだけ残した。辛い一言に奥歯を少しだけ噛み締める。


「終わったね」

カタカタ

「…うん」

「最期まであんたのこと気掛かりだったんだね。見掛けによらず繊細じゃないか」

カタカタカタカタ

「そう…ね」


佐々木くんはかつてあたしの能力を怖がり、自分のテリトリーから排除しようと暴力を振るって来た子だった。ただ、そんなこと日常茶飯だったあの頃のあたしの記憶には残らず、拳を振り上げた彼の方が覚えていただけ。最期まで謝罪の気持ちを忘れずに居てくれてた事だけで少し嬉しかったなんて。
思いがけないきっかけであの頃を思い出したお陰で涙が零れた。お菊がコツンと頭を触る。水を拭い上げて帰路についた。



(…お疲れさん)
fin.

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カタカタ

カタカタ…

カタカタカタカタ







「ねえ、楽しいのかい?そんな文字ばっかり」

カタカタ

楽しくなくてもやらなきゃいけないの

「へー…大変だねぇ」

カタカタカタカタ

大変だと思うなら帰りなよ。わざわざ飛ばしてまで来なくていいのに

「嫌だね。灯(あかり)がいないとつまらないもの」

カタカタ…

あたしそんなに暇じゃないんだけど


ニシシッと笑って誤魔化す。おしゃべり好きな髪の伸びる日本人形。何百年も経つと人形には魂が宿るのだと本人から聞かされた。
今は魂のみを飛ばして、学校に来ているあたしと話している。無駄に毎日付いてくる。


あたしは至って普通だ。
ただ、人より多くのものが見えてしまうだけ。
こうして、教室の扉を開けて覗けばほら。うようよ漂ってる。学校という場所はどうしてこうも集まり易いのだろうか。


「嫌だねぇ、此処はどうしてこうも低俗しか集まらないんだか」

カタカタ

あんたは低俗じゃないんだ

「こんな奴等と一緒にしないでおくれ!」

カタカタッ!

…あたしからしたら、コイツらもお菊(きく)も同じものだけどね

「ふん、所詮人間には解らないよ」

…カタカタ


お菊はとてもおしゃべりだ。あたしが話さなくても勝手に喋り続けてる。不思議な子だ。

廊下を何の目的もなく歩いていた。周りには相変わらずうじゃうじゃ湧いて出たみたいに奴等がいっぱい。
そんな中、笑ってこっちを見ている子がいた。どことなく現代の子から外れているような、個性的で自分を貫いて生きているような子。
あの子はあたししか見てない。まるで誘う様な目付き。自然と足が進んでた。

お菊の声が頭の中に響いてるのに、面倒臭いことが目の前に迫っているのに、足は止まらずいつの間にか走っていた。
気付けば屋上。行き場を無くした女の子は立ち止まり、こちらを振り返った。


「やっぱりあたしのこと見えるんだ」


そう言われて、顔が歪む。
奴等と同じだったのか、面倒臭い。


「一つお願いがあるの」

「……結構です。間に合ってます」



そういうことじゃないなんて言いながらこちらに歩み寄ってくる女の子。
そういえば、五年前にこの屋上から飛び下りた生徒が居るって噂があったな。その子なのかは解らないが、面倒臭いことになるのは間違いなさそうだ。


「そう言わずに。もう、あなたの前に出て来ないから。…ひとつだけ」


哀しい目をしながら何の危害を加える訳でもなく、ただ彼女が好きだった新人教師の話をし始めた。

彼女の恋はとても暖かく柔らかで、外見に合った初恋だった。不覚にも聞いてるこっちまで優しい気持ちさせられた。


「その人ね、今でもこの学校に居るんだ」


ゆっくりと振り返り青空を見上げる。ふと、彼女の話に出てくる人物に身近な人が思い当たる。


「…それ、担任…」


くるっと半回転。にっこり笑って楽しそうに彼女は口を開いた。


「知ってるよ。だからあなたを見てたの」






夕陽が沈みかけた薄暗い校舎内に人影が居るはずもなく、日直の見回りの教師がとぼとぼと歩くだけ。
教師はこれと言った特徴もなく、模範的な生活を送り、これからも角立てずに生きてゆきそうな外見だった。
一つひとつ教室のドアを開き、中を確かめる。生徒が居ないか、不審者は紛れてないか、そういったマニュアル通りの行動。そして、その教室も同じように開けた。


「っと…まだ残ってたのか。下校時間とっくに過ぎてるじゃないか」


彼が開けた教室は自分の担任するクラスだった。そして中には、ポツンと立ち尽くす少女。
自分の教え子だろうと考え、気軽に声をかける教師。しかし少女は反応を示さなかった。その代わりにどこからか声が聞こえてきた。


「…浜井美佳(はまいみか)を知ってるかい?」

「ッ!?だ、誰だ!何で浜井の事を…ッ」


若くも老いたようにも聞こえない、今まで聞き覚えのない声に戸惑い、辺りをクルクルと回り視覚で確認しようと試みる教師。だが、声の主は一向に姿を見せない。
不気味な笑みを零し、また声が言う。


「ふぅん…まだ覚えてたのかい。五年前も前の生徒を…」

「っ…大切な生徒の一人だからだ!」


教師の声が教室内に響いた。
不気味なほど静まり返った教室。しかし先程と何も変わらない。生徒はまだ立ち尽くしていた。


「違うだろう…?」


カタカタッ

どこからか木を叩いたような軽い音がする。まるで声に合わせて鳴っているかのようであった。


「自分が殺したと思いこんでるからだろうがッ」


カタカタカタカタッ!!

先程より大きな音が鳴り響き、少女の方から飛び出してきた黒い物体が教師を襲う。


「うわあああああッ!!」


襲ってきた物体に驚き、よく姿も確認せずに血相を変えて逃げて行く教師の姿は不様でしかなかった。






「ぷッ………はっはっは!見たーっ?あの顔!もう…サイコーッ!」


お腹をかかえてゲラゲラという擬音が似合いそうなほど笑う子。本当に楽しそうに笑っていた。
もう一度戻ってきた屋上はもう夜の風が吹いてて、彼女の髪をさわさわと揺らした。


「……もう気がすんだ?」

「ちょーきもちかった!ありがとねっ」


今やってきたことは彼女の教師への細やかな復讐であり、確認だった。
結局何だかんだいって手伝ってしまった。だが、面倒臭いのもたまにはいいのかもしれない。
そういう気持ちで質問すれば目尻をほんのり赤くしながら二カッと気持ち良い笑顔を向けてくれる。
楽しげな笑みの裏にはたくさんの哀しみがあったのかもしれない。


「それにしても…なんであんなヤツ好きになっちゃったんだろ」

「………」

「しかもそいつの為に死んじゃうしさ」


軽い口調で己の感情を誤魔化すように喋る。相変わらず口角は上ったまま。
しかし、少しずつ声色が震え始めた。


「バカだな…ホントばかだぁ…」

「……ぁっ」


何を言える訳じゃないのに声をかけようとした。しかしそれは彼女が顔を上げてこちらを見据えたことで中断された。
ジッと見たあと、ふにゃっと今まで見てきた中で一番柔らかな笑みを浮かべ言った。


「今度好きになるなら、あなたみたいなぶっきらぼうに優しい人にするね!」


そう言い終えて瞬きをした瞬間、彼女は消えた。
言いたい事だけ言って消えてしまった。こっちだって言いたい事あったのにそれを聞かずに、だ。


「……ぶっきらぼうで悪かったな」

「あら、自覚あったんかね」



お菊があたしの後ろからひょっこり顔を出す。今はちゃんと体となる人形に入っている。
ふよふよと浮きながら前に出てきてニシシッと嫌な笑顔を浮かべた。


「今回のことで少しは人と接することを覚えたらどうだい。…もう少し、近寄ってみなさいな」


笑ってたと思えば、まるで親みたいな表情(かお)して今度は心配してくる。
なんか、すごい調子狂う。


「…小言増えたんじゃない?」

「なッ口の減らない餓鬼だねえ!」


ガミガミまだお菊がなんか言ってるけど、とりあえずは一件落着かな。

もう、陽は沈みきっていた。




(聞いてんのかい!?)

(……怒ってばっかいると皺増えるよ)

(灯ぃッ!!)




fin.

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